第14回 文学フリマレポート

GWの最終日、5月6日(日)東京流通センターで開催された第14回「文学フリマ」。同人誌即売会の中では小説系のブースが割と多い印象のあるイベントです。

さて、今回は、岐阜の純文系総受け人・加楽幽明くんと、仙台の綺談テラー根多加良さんと、三人で共同ブースを出すことになり、私も思い切って(満を持して?)幻想系ゆるふわ作家として単行本を作ることにしました。

■本が出来るまで
最初に、加楽幽明くんの新刊「シンクロニクル弐號」の寄稿作品を書きあげました。後輩書記シリーズの最新作「後輩書記(中略)逆夢の悪鬼に挑む」です。
※ちなみに、この最新作は私の単行本には載せていません。シンクロニクル弐號でお楽しみください。

実のところ、三月までは名古屋の妖怪話を書いていたり、年度末で働き詰めだったりしてほぼ手付かずでした。
四月になり一息ついたところで、ようやく単行本作りに着手。短期間でそれなりのクオリティを出すために急ピッチで構成を固めました。

まず、これまで「へんぐえ〜桔梗〜」に始まり、いろんな人様の同人誌に寄稿してきた同シリーズを一冊にまとめることにし、なおかつ新作やシリーズ外の妖怪系短編を加えることに決めました。

創作は孤独です。孤独との闘いです。しかし、経験者からの情報は大事だと実感。腑楽さん、秋山さん、鳥子さん、幽明さんらの同人誌に寄稿させていただいた縁を通じて、いろいろ教わりました。

単行本の掲載作品とページ数が決まり、印刷見積をネット予約で確認。広告会社勤務のおかげで、印刷物の知識はあり、見積はスピーディに取れました。三社に合見積りを取ったのはたぶん職業病です(笑)

表紙と挿絵は、四月に入ってTwitterで相互フォローしたばかりの葛城アトリさん。妖怪好きで、ふわっとした女子中学生が描ける絵師さんを実はずっとずっと探していたのですが、アトリさんのサイトやpixivを見て、「この人しかいない!」と一目惚れして即刻メールしました。

後輩書記シリーズの小説も読んでいただき、快諾を得て、早速ラフを描いていただきました。緊張したのはラフを確認する瞬間。メールを開けて、ふみちゃんと数井くんが絵になったときの感動を誰に伝えたらいいのか。心の中で小躍りしました。これがオリジナルキャラへの愛です。
で、構図の調整などを少し相談し、いざ本描きを依頼。

印刷所を決めて、入稿日を連絡し、本当に短期間であのクオリティの表紙と挿絵を描いてくださったアトリさんには感謝の思いが尽きません。
後輩書記とセンパイ会計、不浄の美脚に挑む

次は告知です。
Twitter、文フリ関連サイトなどでひたすら告知を行いました。
文学フリマの公式Wikipediaだけはwiki文法がわからず時間がなく諦めました。文法はいずれ身につけたいと思います。
Happy Readingという立ち読みサイトは本当にいい仕組みです。登録が簡単だし、実際そこで試し読みして買いに来てくれたお客様もいらっしゃいました。

それから、売り場作り。今回一番悩んだのがこれです。
表紙は目立つデザインですし、サイズもA5なのですが、やはり商品が一種類だとかなり寂しい。手芸ブースや常連さんみたいな“選ぶ楽しみ”もないのです。
しかし、ここは広告マンの知恵の絞りどころ。
とりあえず考えたのが、メインビジュアルをいろんなサイズでグッズ展開っぽく物を配置し、賑わいを出すことです。Twitterや立ち読みサイトで表紙を覚えてくれた方も思い出しやすくなります。

もうひとつ、卓上に飾ったのは氷里さんに助言いただいた「妖怪切り絵」。お客さんと妖怪の話を少しするきっかけが作れるし、手芸品の好きな方が文フリ来場者には多いと思います。
材料を買い、半日かけて自作しました。後輩書記シリーズで扱った妖怪をみんな盛り込んだものです。写真を撮って行くお客さんもいて大好評でした。
妖怪切り絵

そして現物。印刷所から直接搬入してもらったので、会場で単行本と初めてのご対面。うわー!すげーきれいな色が出てる。やっぱりクリアPP加工して良かった!
中の紙は上質90kの淡クリームキンマリ。いわゆる文庫本の紙の色です。厚みもちょうどいい。挿絵もきれいに刷れてました。

本をしげしげ眺めていたら、ブース装飾を急がないといけなかったので、布を敷いて本とPOPと値札と切り絵を置きました。
値札にもひと工夫。和風の折り紙で台を作り、カードを差しました。下の布も含め全体ど和物のぬくもりを出すことにしました。

で、完成したブースを記念にパチリ。一般参加者の会場五分前です。
文学フリマブース

あと、本をなぜA5にしたのか、と打ち上げ後に秋山さんから聞かれました。
本の手の収まり感、文字の大きさなどを考えると、A5で二段組みにしようと思いました。あとは、中の挿絵が二点なので存在感を出したい。定型サイズは絵師さんや印刷所とコミュニケーションしやすい。など、いろんな理由です。

■販売スタート
見本誌コーナーに本をセット。なるべく手に取りやすい場所に。発色がきれいなクリアPPはよく目立ちます。
 
ブースには、久しぶりに会う方、初めて会う方も多く訪れていただきました。
以前京希さん主催のオフ会で知り合ったすみたにさんが買いに来てくれました。女子高生のお客さまです。会場早々来てくれるなんて感激です。元気出ました。
SF評論で優秀賞に輝いた渡邊利通さんと初対面!昔、私のシュールコメディ小説にコメントをいただいてからのご縁ですが、買いに来てー!とお願いしたら本当にお越しくださいました。厚く感謝。
添田さん、若千さん、百三さん、タカスギさん、楽士さん、たなかなつみさん、葉原あきよさん、渋江くん、もにょさんらが続々とご来店。渋江くん、ジャケットが暑苦しいです(笑)
月季さんに初めてお会いしました。静岡からとは!しかも差し入れまで!ありがとうございます。
心臓常連のkoroさんもご来店。なんか女優さんみたいでしたよ。根多加さんもテンションMAX!(笑)
koroさん、私の切り絵に興味津々で、売ってくださいと頼まれました。量産できないけど…!次はがんばります。
キセンさん、踝さん、秋山くん、ことひとさん、なっちゃん、鳥子さん、御於さん、中根さん、腑楽さん、五十嵐さんらも来店。※漏れてたらごめんなさい。
ちなみにオチ担当・峯岸くんは閉店間際に来て見本誌を読んで「これってラノベでしょ? 俺ラノベは読まないし」と捨て台詞をかまして去りました。愛なき時代に生まれた男ですよ。お前に読ませるふみちゃんはねぇーっ!(笑)

と、知り合いの方々を紹介しましたが、知り合い以外で本を買ってくださった方はもっと多かったです。
例えば、大学生らしいカップルが立ち止まり「妖怪ですか?」と聞くので「はい、ライトな妖怪ものです」と答えると「じゃあ、買いだね」と二冊ご購入。新時代が来た感じがしましたよ!

という感じで十六時にイベント終了。おかげさまで販売は好調、初めての単行本は三十冊売れました。幽明くんのシンクロニクル弐號も、根多加さんの扱った綺談集や純文学同人誌も好調な売れ行きでした。
私のは、残部のうち二十五冊は密林社様に預けてAmazon通販に。
残りはまた今後のイベントで販売します。今回入手できなかった方は、Amazonか夏のイベント情報をお待ちください。よろしくお願いします。

打ち上げは、秋山くん、踝さん、キセンさん、鳥子さん、もにょさんらの組に合流。有村さんや宵町メメさんとも挨拶。最後はだいぶ眠くなりましたが、秋山くんとサシでもう一軒行き、創作のことなんかを語り合ったりしました。
とりあえず秋山くんはいろはさんの続編で「にほちゃん」という妹を出せばいいと思うな。

■反省会
ひとつやってしまいました。
あれだけきちんと用意した購入特典の特製しおりを、サンプル以外全部名古屋に置いて来てしまいました。ごめんなさい。ごめんなさい。
ゼッタイ鈴子さんにもしばかれる……!
とりあえず、購入者の方々はお会いできる機会にお渡しします。ほんとすいません。

出展者のみなさん、来場者のみなさん、どうもありがとうございました。
またこれからもよろしくお願いします。

■通販はこちら!

後輩書記とセンパイ会計、不浄の美脚に挑む後輩書記とセンパイ会計、不浄の美脚に挑む
(2012/05/10)
青砥 十

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よろしくお願いします。

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テーマ : 同人小説
ジャンル : 小説・文学

2012GW小説「後輩書記とセンパイ会計、男色の狩人に挑む」

 開架中学一年、生徒会所属、有能なる書記のふみちゃんは、時代が違えば、「東海道中膝栗毛」の講談師にだってなれただろう。弥次さん喜多さんは江戸から大変仲良く二人旅をはじめ、箱根の峠に差し掛かったあたりで、全裸で四つ足の歩く肉人と言うべきものに行き遭った。それは顔に薄ら笑いを浮かべ、涎を垂らしている。「┌(┌ ^o^)┐ ほもぉ……」と鳴いた声は女人のようであった。と、生徒会室でふみちゃんは前置きもなしに訥々と語り出す。
 何か邪気あるものに取り憑かれてしまったのか。僕は一呼吸置いて眼鏡を直し、ふみちゃんのかばんから花柄のしおりがくねくね踊り出すのを見た。文系の女の子に見えて理系の僕に見えない何かがあるのか。あるとすれば探るしかない。
「……それは、危険なのか?」
「数井センパイ、違います。危害はありません。ただ、いつもニヤニヤあなたの隣に、名状しがたい混沌、這いよるホモォです!」
 すでに溢れ出していた状況説明は雑だった。いや、状況説明ですらなかった。この時代の男色家には膝に栗毛があり、四つ足の女人はそれを集めていたらしい。集めた毛で筆を作り、黄表紙でも青表紙でもない、腐表紙という書物を出して盆や暮れに売るのだと言う。
 これは止める必要があるだろう。腐表紙に彩られたふみちゃんは困る。僕の出番だ。
「ふみちゃん、いくら本好きでも、キャラが崩れるからそっちに踏み込んじゃいけない!」
「でも、センパイ、腐っても鯛、いや腐って鯛、むしろ腐ってたい☆ですよ」
 突然すぎるのもそうだけど、何でこんなに熱いんだ……!
「ふみちゃん、そっちはまずい。ハンターが狙ってるから!」
「センパイ、違います。捨てるカプあれば拾うカプあり、二次から出た真、表紙は寝て待て、後悔入稿前に立たず、ですよ」
 ダメだ、何とかしないと……。
「――腐表紙作りの格言はわからないけど、『腐る』という字は家の中で肉が付く、って偉い人が言ってたよ」
 すると、この一言で、ふみちゃんに取り憑いたものは掻き消えた。冷水を浴びたように呆気ない幕切れだった。ふみちゃんは脱力してクタッとなり、僕は慌てて支えた。
「――ん、ふみすけ、どうした? 金欠か? 酸欠か? ドンケツか?」
 ちょうど生徒会室に入ってきた会長の屋城世界さんに心配される。絶対にそんな理由で倒れた状況に見えないはずだが、微妙に間違ってない気がするのはなぜだ。
 ちなみに世界さんはすごい名前だが、性別は男だ。
「┌(┌ ^o^)┐ ほもぉ……」
 ふみちゃんは目を閉じたまま、うなされるようにつぶやく。まだいたのか。陸上部で鍛えられた体を持つ世界さんの登場に反応するな。

 その後、目を醒ましたふみちゃんは普通の感覚に戻り、いつも通り古典文学を原書コピーで読んでいる。字がくねくねしていて僕にはわからないが、コピー本のあり方は古代から大差ないそうだ。
 ふみちゃんが筆箱から毛筆の筆を取り出したので、一瞬焦ったが、写本を始めただけだったので安堵した。いつも通り特に進展も新刊も震撼もないが、写本を終えたふみちゃんと一緒に帰るだけだ。

(了)


先日、ツイッターを席巻したネタでひとつ書いてみました。
2012/5/6(日)の文学フリマで、単行本新刊「後輩書記とセンパイ会計、不浄の美脚に挑む」を発売します!
こんな内容じゃないから安心してね! よろしくお願いします。

テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

「ノドイモッ! の処方箋」

※予想通り物議を醸した茶林さんのショート作品「ノドイモッ!」を先に読まれることを推奨します。
また、本作は内輪ネタを多数含みます。あらかじめご了承ください。それでは張り切ってどうぞ。


 昔から「喉に通しても痛くないほど可愛い妹」などという言葉があるが、本当の妹なんて『うざい』の一言に尽きる。この格言を歴史に残したやつは妹なんかいなかったんじゃなかろうかとさえ考えてしまう。と、妹という属性で思索に耽っていると、ガチャリといきなり部屋のドアが開いた。
「ねぇねぇ、兄上、胸が育たないでござる」
 これが中二の妹である。バカ、お前ノックをしろ! と慌てて保健体育の自宅教材を妹の視界から隠す。薄い本? 動画サイトに決まってるだろそんなの。
「胸が3Dにならないでござるよ、にーにん」
 だからどうしろと。左が赤で右が青の二色メガネとかあり得ないぞ。もう外で遊んで来いよ。いや、この痛さだとそれも困るな。太ももの相談ならいくらでも聞いてやるが、胸のほうは不得意科目なのだ。だいたい僕は2Dでも愛せる。そういう男は将来たくさん出会えるよ。心配するな。
 ちなみに妹の語尾が忍者ハットリくんかぶれみたいなのは、順を追って説明すると、何でも先日、電子レンジでサツマイモのふかし芋を作ろうとして、手違いで感電して、芋津鞠斬之介(いもつまりざんのすけ)という侍の霊が乗り移ったらしい。
 最初は侍だったはずが、いつの間にか「拙者は世を忍ぶ存在になった」と開き直って兄をニンニンと呼ぶようになり、食事中にそれは止めてくれと頼んだら、元々の呼び方(呼ばせ方)であった「にぃ」と化学反応を起こして「にーにん」になった。いやむしろ核融合とか近未来素材みたいな感じである。
 そもそも感電少女というだけでも十分痛い属性がついたのに、中身が兄を「にーにん」と呼ぶ侍というのだから、こんなものが喉を通って痛くないわけがない。僕の目が白いうちは嫁に出せるわけがない。間違った黒いうちだ。
 さて、まったく話が進まないわけだが、設定の説明が終わったので、後はもう流れ作業みたいなものである。予定通り黄色いタコ型地球外生命体を殴り、ぺしゃんこにして、美女に囲まれるハーレムエンドを迎えるだけだ。これからそういう話をする。楽しみに聞いて欲しい。

 まずは目の前の妹だ。名は真降(まふる)という。親が勝手につけたんだ。便宜上ではない。
「昨日、昔の拙者ーーつまりは芋侍が夢枕に立ったでござる。大事な話があると」
 おっと、芋侍って自分で言ったよ? 真降の人格が混ざってるからか? だとしたら申し訳ないな……兄として。
 真降は口惜しそうに語る。
「拙者の宿っている身体が、胸が育たない奇病にかかったでござる。恐らく、拙者は巨乳にしか興味がない主義を一生貫き通したのに、この世で乳の小さい……失礼、未発達のおなごの身体に宿ったが故に、呪いが発動したのでござろう、にーにん」
 何か途中言い直したな。語尾のうざさは百歩譲るとして、巨乳絶対主義を貫いた侍って……何だその仇討ちに遭いそうなやつは。案外もうそこら中で袋叩きにされてそうだけど、まあ、いいか。何より不憫なのは妹の胸だ。たとえ巨乳に育たなくとも普通に成長する可能性は取り戻してやりたい。健全な兄の思いとして。
 考えがまとまったところで、中の侍に尋ねる。
「呪い? 参考までに聞くけど、どうやったら解けるんだ? 言っとくけど、いくらラノベ的だからって実の兄とキスとかエッチとか歯磨きとかダメだぜ?」
 真降はポカンとする。え、中の侍がポカンとしたのか?
「現世ではそうやって呪いを解くのが一般的でござるか? にーにん」
 んなわけないが。もう混乱してきて、こっちが自爆して赤っ恥をかいた感じになってしまったが、とにかく中の乳好き侍を追い出せば問題は解決しそうだ。というかこんな迷惑なやつ一刻も早く何とかしないと。
 霊的な問題による若い女性の奇病か……。机に向かい、ネットで調べ始めると、出るわ出るわ怪しげな専門家の名前が。これ占いとか宗教とか詐欺とかじゃないか? と疑いつつ、何とかまともに解決してくれそうな専門の医者を探し当てた。
「おい、真降、ここなら大丈夫そうだぞ」
 振り返ると、真降が背後から抱きつきかけていた。真降は、駐車場で目が合った猫みたいにハッという表情をする。待て待て、いまお前の中身はどれだ。妹か、侍か、真降の元の人か。いやどれでもマズイだろ。
「兄上、やっぱり頼りになるでござるっ! にーにん!」
 侍の線だけは消えた。分かった。分かったから。
 いいか迷言を残した先人よ、悔い改めよ、肝に刻め。本当の妹なんて『うざい』の一言に尽きるのだ。

 いよいよ本題。
 若い女性の奇病を専門として少し名の知れた先生がいた。名は不二という。医者でふじなど縁起でもないが、先生の場合は関係ない。ネット情報では、年は三十過ぎと若いのだが、面相は恐ろしく老けている。先生の病院に行くと、近所のお年寄りが喉に通りやすい煮物などを渡して気遣ってくれる様子を見かけた。
 お年寄りに好かれる人に悪い人はいない。そう思って、診察室で正直に経緯を説明する。不二先生は「中学生は久しぶりですね」とつぶやきながら親身に聞き入ってくれるが、肝心の真降は先生のそばに立つ看護婦の胸に見入っていた。
 変わった名前なのかと名札を見ると、「菜乃葉」という苗字か名前か分からない感じだったが、たぶん中の侍がナース服に包まれた胸のサイズを目測しているに違いない。こんな具合に、奇病は明らかに妹の日常生活に悪影響を及ぼしていた。
 説明を終えると、不二先生は神妙な面持ちでゆっくりと頷いた。
「失礼ですが、黄色いタコ型地球外生命体の話はどうなりました?」
 あっ!
 という顔を思わずしてしまった。隣りの真降はもう看護婦の胸から興味を失っている。どうやら普通サイズだったようだ。僕はいったい何を気にしてるんだ。とにかく先生の質問に答えないと。
「タコ型ですか。そ……それは、妹の中にいるような気も、いないような気も、いや今頃どこかで干されてたり加熱されてたり裁断されてたりする予感もするんですが……」
 先生は穏やかに苦笑いする。
「まあ、仮にタコの話をされても、宇宙人による奇病は専門外ですから、よそに紹介状を書いてあげる程度しかできませんが」
 そういう専門医とかいるんだ。タコ相手なら実力行使でも良いような気もするけど。
 トン! 先生は長い指でカルテを叩いた。
「幸い、回り道せず、ここで対処法をお伝えできますよ。妹思いのお兄さん」
「あ、ありがとうございます」
 ほっと胸を撫で下ろす。
「菜乃葉さん、照華さんと梨伊さんもここに呼んでください」
「はい!」と看護婦は元気に奥へ小走りに向かって行った。すぐに看護婦が三人揃ってやってきた。懐かしいアイドルの登場みたいな乗りだ。みんなナース服だが、ちょっとおかしい。その上にエプロンを着けている。
「きゃー! 妹さん可愛いー!」と一気に賑やかになり、きゃっきゃうふふと取り囲まれた。なぁ、この先生、というかこの病院、信じていいんだよね……?
 菜乃葉さんから僕たちにも華麗にエプロンが配られる。
「はいっ、妹さんのも! お兄ちゃんのも!」
 勢いに負けて着ることになった。どういうことだこれ。さすがに真降もちょっと挙動不審になる。当然と言えば当然だ。
「ねぇねぇ、これって何が目的でござったか? にーにん……」
 真降あるいは芋侍どちらの本心だろうと、真っ当な疑問だった。
 だが、こちらのペースは構わず、
「さっ、すぐに用意するからね。妹思いのお兄ちゃん」
 照華さんという名のウサギ柄のエプロンをした看護婦が慣れた手付きでサツマイモを洗い始めた。
「手抜きせず、美味しくふかさないとねー。妹思いのお兄ちゃん」
 梨伊さんという名のなぜかフード付きのナース服を着た看護婦が、蒸し器を準備している。えっと、ここ診察室だよね?
 ただ、きれいな年上女性たちに何度もお兄ちゃんと呼ばれて、かなり気恥ずかしくもありつつ、だんだん気分が高揚するようになったことは、妹には内緒だ。
 その傍らで、不二先生は軽やかに腕組みしながら様子を見守っていた。
「妹さんが奇病を患った原因は、芋が喉に通るように電子レンジでやったら失敗したことです。ふかし芋は蒸し器に限ります。年寄りの知恵は素直に倣うものですよ。さ、お兄さんも手伝ってください」
「あの、料理なんかで……?」
「治す方法を、言いましたよ」
 そして、処方箋を渡された。きちんとご利益がありそうな模様が刷られた清らかな和紙に書かれていたのは、ふかし芋のレシピだった。

 先生いわく、ふかしとは不可視でもある、と。つまりは霊体だ。また、ふかしは空振り、すなわち正しくやれば呪いの失効になると。
 それと、ふかしは不可死でもあり、不死は不二なので、先生自身もふかし芋が大好物で、作り方は近所のお年寄り直伝だから絶対に保証する、と。
「後でちょっといただきますよ。よろしく頼みますね」
 先生は、看護婦たちに調理を任せつつ、途中楽しそうにちらちら覗きながら、診察室に立ちこもる美味しそうな湯気を堪能していた。
 そして、完成した手作りふかし芋は、冬にぴったりで、心温まる最高の優しさと甘さだった。不二先生もうんうんと実に満足げにホクホク食べている。
 それはいいとして、何を血迷ったか、看護婦たちは兄として真降にふかし芋をあーんしてあげなさいと煽り、僕は顔を真っ赤にしながら一応従った。蒸したての芋をスプーンですくい、ふうふうして妹の口に運ぶ。真降がモグモグゴックンすると、何とすぐに口調が元に戻ったのである。
「なぁ、ちょっと、にぃ」
「おっ? お、おおぉ……?!」
 乳好き侍のもたらした最低な呪いはちゃんと解けたのだ!
 やった! ふかし芋を乗せたスプーンに思わず力がこもる。真降が元通りにーー
「なぁ、ダメッ、熱いって! こんなに一気に食えるわけないだろぉ! クソバカにぃ!」
 不二先生も看護婦たちも一瞬目を丸くしたが、いや、これでいいのだ。これでいいのだ。これが日常だ。
 本当の妹なんて『うざい』の一言に尽きるのだ。


 結局、黄色いタコ型地球外生命体はどうなったかって? まったくスルーするのが一番の始末方法なんじゃないの?
 つまり、そんな存在を忘れたり思い出さなかったりで、先生たちに芋代を払って深々とお辞儀をし、二人で帰路に着いた。
 途中、真降から思いがけず「蒸し器ってうちにもあるのかなぁ」などと聞かれたが、どうせ料理なんかしないだろと苦笑いし、もう胸の相談なんかするんじゃないぞ、と頭を少しこづいて帰った。

(おわり)




お読みくださり、ありがとうございました。
面白かったら、拍手とかコメントとかくださいませ。

バトンの回答

 御茶林研究所の茶林小一さんから「物書きに捧ぐ質問攻めバトン」というのが回ってきたので、答えてみようと思います。
 もうバトンなんて遺物かと思ってましたが、どっこい生きていた!と結構失礼な前置きをしつつ、フランクに述べたいと思います。

1.名前を教えてください
 sleepdogというのがハンドルネームで、TwitterのIDでもありますが、近年参加している同人誌などでは青砥十と名乗ってます。単純に縦書きでsleepdogは使いづらいからで、大した意味はありません。強いて言うなら、アイウエオ順で先頭に来やすい名前だという姑息な狙いがあります。ええ、ありますとも(笑)
 ちなみに、mixiでつながってる人は本名も知ることができると思いますが、実は本名の苗字で「○○さん」と呼び掛けられると0.5秒でキュン死するので(ただし女性に限る)、あまり広めてません。
 sleepdogと青砥は作風で使い分けは特にありません。両方とも平等に愛して構わないですよ? つか、七色の文体とか寝ぼけたこと言ってる火星人には「あんた緑一色(リューイーソー)だよ?」と温かい言葉を送りたいです。

2.主にどんな話を書きますか?
 作品の数では「短編小説」が一番多いです。企画物は何かと原稿用紙10枚という規程が多くて、そのサイズが手慣れたものになりました。
 なぜ、短編小説が多いかと言うと、理由は二つ。一つは、自分の作風に最も大きな影響を与えた村上春樹の短編小説が大好きだったから。「パン屋再襲撃」とか「納屋を焼く」とか。
 もう一つは、ネット小説を始めた頃に参加した投稿サイト「ブランバー」がすごく勉強になるコミュニティサイトだったから。浅井さん、卯月さん、まあぷるさんなどたくさんの方と出会い、ネット小説の世界にのめり込みました。
 ジャンルはざっくり言うと幻想小説です。時にファンタジーや冒険のテイストが強かったり、怪奇物だったり、青春や恋愛だったりしますが、作品ごとに独自の世界観を描くこだわりがあります。ある世界にキャラクターを放ち、駆け巡らせることで世界の輪郭を感じてもらう書き方をしています。

3.ものを書き始めたのはいつですか?
 小説を書き始めたのは高校一年生です。当時は推理小説を何作か書いてました。幻想小説を書くようになったのは大学生からです。

4.同時進行で何本くらい書けますか?
 あんまり考えたことがありません。短編小説書きには不向きな質問かな、と。キャパシティ的としては三本くらいでしょうか。

5.長編と短編どっちが好きですか?
 プロの本なら長編をよく読みます。ただ、ネット小説だと、短編が手軽に読みやすいので短編が多いです。しかし、ネットの短編は「焦点が曖昧で微妙なもの」が多々あるので、ガッカリすることもあれば、予想外のヒットに巡り合うこともあります。
 焦点が曖昧なのと、起承転結ができてない、詰め込みすぎ、はどれもニアリーイコールなのが実際のところ。大河ドラマの脚本じゃないんだから、小説ではモチーフ(物語の構成要素)を欲張るより絞ったしたほうが印象に残るシャープな作品が書けます。それは長編も短編も差はありません。

7.今まで最大で何ページ書きましたか?
 連載中(休載中)の「全力のハクア」は20万字近くを書きました。400字詰め原稿用紙だと500枚近くですね。

8.使いまわしたいくらい好きなキャラはいますか?
 「使いまわしたい」という言い回しは個人的には苦手ですが、同じ主要キャラクターで続編を書きたいと考えている作品は「音撃の双剣」です。

9.出来ればシリーズにしたい.という話はありますか?(出来ればタイトルも)
 実はシリーズってそんなに安直に書くものでもないと思うのですが、シリーズ形式で物語を育てるスタイルはありだなと思います。
 現在、「後輩書記とセンパイ会計」で、連作という試みをしています。さして目新しいチャレンジでもなく、むしろ中学生カップルをどこまで楽しく書けるか、くらいの軽い創作目的なんですが、断片に触れたときせっかくだから他を集めたくなる感じにしたいと考えてます。

10.消し去りたいという話はありますか?
 作品の価値は上手いか下手かだけではないと思っています。後悔の念も含め、自分が書いた作品は自分の生きた軌跡です。アルバムを開くような感覚で、過去の作品を時々読み返し、読者になった気持ちで楽しんでいます。

11.物書き中これだけははずせないということやものはありますか?
 一つは結末。結末と言える結末があるだけで、読後感を大きく左右します。
 あとは、女性あるいは女の子でしょうか。男一人だけの作品は極めて少ないと思います。

12.この人の影響を受けたという物書きはいますか?
 先述でも出ましたが、村上春樹です。他にもたくさんいますが、外せない存在です。

13.こんな文を書きたいという理想はありますか?
 五感で感じる文体です。
 視覚は当然ですが、音、匂い、手触り、温度、そうしたものがしっくり来る文章。まるでそこにいるかのような臨場感をどれだけ感じられるかが、私の幻想小説の醍醐味になればと思います。

14.一番最初に書いた作品さらせますか?
 高校の文集に収録されているので無理です(笑) ブランバーに初めて投稿した短編小説は「月と毒虫」です。これは割と通好みなので、よかったら読んでみてください。

15.次回作の構想はありますか?
 とりあえず、連載の再開です。

16.創作派? 二次創作派?
 二次創作は書かない買わない関わらない主義です。

17.(16について)何故そっちなのですか?
 自分にしか書けないオリジナリティにこだわりたいからです。
 二次創作という活動については否定はしませんが、どうでもよいのですが、18禁やBLや百合の領域まで行くと「あなたは原作者の心中を考えましたか?」と問いたくなります。
 そして、理由はどうあれ原作者が不快になったり迷惑に思ったりしたら潔く即刻辞める覚悟くらい持つべきだろうと思います。

18.盗作についてどう思いますか?
 やられたことはないですが、罪悪感がない時点で人として終わっていると思います。卑小というか、空虚というか、物書きの端くれなら自分のアイディアと文章で作り上げろ、と。
 もちろん世界は広く、表現は自由で、流行りもあるので、プロや他人の作品と設定やモチーフがかぶることはあります。ただ、割と似てるな、とまんまじゃん!の間には明らかに違いがあります。
 あと、盗作された側も、臆さず徹底的に意つ思表示すべきです。泣き寝入りは、必ず心に傷を残します。

19.これからも物書きであり続けますか?
 ずっと何か作品を書いてますよ(笑)

20.物書き5人に回してください
 まあ、それは勘弁ということで。

2012年賀小説「後輩巫女とセンパイ会計、旧機の残影に挑む」

 開架中学一年、生徒会所属、有能なる書記のふみちゃんは、時代が違えば卑弥呼にだってなれただろう。いや、卑弥呼にはなれないか。それくらいお正月から紅白の巫女服が似合っていた。中学校は当然バイト禁止だが、家が神社なので、小学生、いや幼稚園の頃から手伝っているらしい。園児のふみちゃんに巫女服とか完全犯罪だ。罪にならない罪だ。
 と、元日からふみちゃんの巫女服をじっくり眺めている一年先輩の生徒会所属、平凡なる会計の僕は、およそ吊り合わないほどの和服音痴で、数学が得意な理屈屋で、新年用に眼鏡を新調したばかりだった。
 しかし、こんなにふみちゃんをじっくり眺めているのは、僕がただ見たい以外の理由がある。参拝客がまったくいないのだ。元日である。神社である。鳥居もある。本殿もある。神主もいる。中一のかわいい巫女手伝いもいる。だが、参拝客がいない。僕を除いて。つまり僕が参拝を終えてしまうと、この神社は下手したら初詣終了である。
「不景気なのかな?」
「数井センパイ、違います。貧乏神が住みついてるんです。探しましょう」
 今年もふみちゃんは唐突にこういうことを言い出す女の子だった。ブレないのがふみちゃんの鉄則であり定石であり美徳だった。
「え? 貧乏神?」
「それを探すのがここの巫女の役目なんです。そうしないと一ヶ月経っても参拝客が来ません」
 一ヶ月後にはどこの神社も参拝客が少なくなっていると思うが、それはそれとして。
「まあ、お客さんが来ないと神社も困るよね」
「数井センパイ、違います。あれが残ると大変なんです」
 ふみちゃんが指差したのは小屋の中にあるソフトクリームの機械だった。お母さんがせっかく作った自家製八丁味噌ソフトが大量に残ると、大変なことになるらしい。何がどう大変になるかは固く口止めされていて、教えてくれなかった。どうやら、“すべてが味噌になる”らしい。
 だが、仮に参拝客が来たとして、ソフトクリームは買わないと思ったが、おみくじを引いた人に無料で配るからいいのだと言う。それがまずいんじゃないかと内心思うが、ふみちゃんも仕込みを手伝ったらしいのでそれは言えなかった。
「で、探すってどこを?」
「いる場所は検討がついてるので大丈夫です」
 そう言って本殿裏の物置に向かい、南京錠を外して戸を開けるふみちゃん。何があるかと思って覗いたら、中はただの物置だった。真ん中にブラウン管のアナログテレビがある。まだ処分してなかったようだ。
「ほら、やっぱりここです。あ、起きたのかな。テレビから頭と両手が出てきてる」
 そんなものはまったく出ていない。ただの黒い箱型機械だ。厚いコートを着ているのに、余裕で背筋が寒くなる。今年は展開が早いな。もう僕の出番なんだ。文系の女の子に見えて理系の僕に見えない何かがあるのだろうか。あるとすれば探るしかない。
「何が……どこから……出てきたの?」
「貧乏神です。あのテレビから」
 年代物のテレビだ。当然、電気など通っていない。ほこりっぽくてひんやりと暗い物置の中に、巫女服のふみちゃんと二人だけ。
「そのまま……そいつは外へ出て行ってくれそうなの?」
「数井センパイ、違います。彼女は胸がつかえて出られないみたいです」
 そこから溢れ出す状況説明は雑だった。今年の貧乏神は高校生くらいの女の子で、傷んだ長い髪だが、それは安いブリーチで傷んだから後悔して黒髪に戻しただけで、寝起きのはだけた白い着物の胸元に龍の刺青があるような不良だけど、いまだに携帯も持ってないアナログ派であるらしい。
「刺青は年末にリア友の弁天様に誘われて一緒に入れたみたいです。ほら、弁天様は水の神、龍神だから」
 僕は迷うことなく錯乱していた。今年の貧乏神。女子高校生。アナログ派。不良。大きな胸がつかえて。寝起き。はだけた胸元。龍の刺青。リア友の弁天様。龍の神。あれ、弁天様はお金の神様でもなかったか? 貧乏神とリア友なの? 相殺されないの?
 で。
「要は……出れないんだね?」
 つまりこれだと参拝客は来ない。ふみちゃんは肩を落として頷いた。貧乏神は痩せているイメージが勝手にあるが、いやあくまで世間的なイメージだが、スレンダーで胸が大きい女子高校生なんて少し裏切られた気分だった。なんだよ、恵まれてるじゃないか。それはともかく。
「ふみちゃん、なら、簡単だ。すぐお客さんは来るよ」
「えっ? ほんとに? あんなお化けみたいなおっぱい、かなり頑固そうだよ?」
 新年早々、ふみちゃんの口から“お化けみたいなおっぱい”というフレーズが飛び出すとは悪い初夢のようだが、僕は状況の最適な解決を優先した。
「テレビを運び出そう」
「えっ、体が出たまま?」
「いやーー」
 想像すると気持ち悪いし、なぜか照れもあった。あらためて断言するが、理系の僕にはテレビから出ようとしているらしい貞子さん系の彼女の姿は見えない。
「ふみちゃん、違います。一旦、中に戻ってもらおう」
 ふみちゃんは合点がいったという表情で目を輝かせた。僕は言ってから困ったのだが、貧乏神とは言え神様だ。子供がお願いしても素直に戻ってもらえるのだろうか。
「数井センパイ、つまりこうですね?」
 ふみちゃんはいきなりテレビを後ろに倒して画面を上にした。ゴロンと大きな音が鳴る。仰向けの箱型テレビ。そして僕に笑顔いっぱいに報告する。
「引っ込みました」
「あ、ああ……」
 一応神様だと思うが大丈夫だろうか。まあ、これでふみちゃんが貧乏になるようなら、僕が将来安定した職に就けばいい。とかちょっと思ってしまった。

 僕たちは、様子を見に来た神主のお父さんに頼んで、元日からやっている粗大ごみ回収車を呼んで、早速テレビを引き取ってもらった。あれに貧乏神がいるのかいないのかは別として、軽トラの荷台に載せられて行くのを見て、頭の中にドナドナが流れた。
 横でふみちゃんは目をつぶり、しっかり拝んでいた。僕も、少し違うだろうけれど、使い古した年代物には神様や霊が宿るという話を思い出して、同じように拝んだ。
 手伝ってくれた御礼に、と神主のお父さんからおみくじを一回タダで引かせてもらった。ドキドキしながら棒を引き、ふみちゃんにおみくじを渡してもらった。
 なんと大吉である。正月から貧乏神を送り出したせいか金運は最高で、大きな成功のチャンスを掴む、とあった。勉学運はまあまあ良くて、恋愛運は辛抱すれば必ず結ばれる、とあった。ふみちゃんに見せてみる。
「恋愛運のこれってさ、いいの?」
 ふみちゃんはおみくじを読んだ後、僕の顔をじっと数秒見つめてきた。嬉しかったけど気恥ずかしくて、早く何か言って欲しかった。
「数井センパイ、ごめんなさい」
 ふみちゃんは本当に申し訳なさそうな顔をする。
 僕の2012年は終わった。
 と本気で思った。
「おみくじの番号が違いました。取り替えます」
 僕の2012年は救われた。ーーのか?
 ふみちゃんが別のおみくじを持ってきた。今度は末吉、恋愛運は“試練を受け入れよ、さすれば龍の助けあり”とあった。辛抱とか試練とかがあるのは確定のようだ。
「ブルース・リーのファンなら垂涎物の言葉だね。はい、これ食べてってな」
 ふみちゃんのお父さんが特大の八丁味噌ソフトを渡してくれた。小屋の中の椅子に座り、巫女服のふみちゃんと並んで食べる。小さい口で美味しそうになめる。
「数井センパイ、ありがとうございます」
「いや、僕はたぶん何もしてないよ」
 今日何かがあったとすれば、年を越した古いテレビを処分したくらいだ。
「数井センパイ、違います。貧乏神がいるから誰も来ないはずなのに、センパイは来てくれたから嬉しいんです」
 冷えた小屋の中で、にこにこと笑顔を傾ける。まさか巫女服のふみちゃんに会いたいからとは言えなかった。
「僕はお客さんじゃないからね」
「ほえ? じゃあ、何ですか?」
 その質問にドキリとする。学校の先輩? 友達? それとも。僕は一人勝手に照れ臭くなって、ごまかそうと今朝のテレビニュースをひとつ思い出した。
「あはは、何だろう、福男かな」
「センパイ、違います。それは年男です」
 ふみちゃんはピシャリと言い切り、ペロリと八丁味噌ソフトを平らげてしまった。
 三学期が始まるまであと一週間くらいだが、ふみちゃんと別に進展はない。おみくじを枝に結んだ後、ちっちゃな手を振る一年後輩のかわいい巫女……じゃなかった書記に見送られて家に帰るだけだ。

(おわり)


今年のお題はこちらの四つです。
・龍の刺青(茶林さん)
・元旦なのに一人も参拝客の来ない神社の巫女が「きっと貧乏神がいるに違いない」と目を光らせ境内中を探索して回る(いさやん)
・テレビから出るに出れない貞子さん系女子(渋江さん)
・八丁味噌ソフト(楠沢さん)

今年もよろしくお願いします。去年に続いて今年も巫女ネタかよ!という読者の皆さん、お題に巫女が入ってるんです!だから私は悪くない。

テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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オンライン作家としてぼちぼち活動しています。群馬県出身、東京都在住、広告会社勤務の32歳、男です。どうぞよろしく。

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