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後輩書記とセンパイ会計、眼鏡の同盟に挑む

 開架中学生徒会二年、平凡なる会計の僕は、以前七夕の夜に川底幻燈の市がある町で出会った男子中学生と、実はLNEを交換していた。交換した時に意味のない眼鏡イラストのスタンプを送って以来、数ヶ月間、一通もやりとりをしていなかったけれど、今日LINEを開いたらその男子中学生の誕生日です、とアラートがあったので気付いたのだ。
 遠藤正志くんという名前だ。LINEのアカウント名はだいぶ変わっているので誰かわかりにくいのだが、愛用の一眼レフカメラの写真をヘッダー画像にしているから間違いない。近況写真のところに、あのとき一緒にいた真ん中分けでおさげ髪の可愛い女の子が彼女(?)みたいな笑顔で載ってるから、どこが暗い眼鏡同士なんだ、向こうはリア充成分100%じゃないか、これはもう進展しちゃってるだろ絶対、と内心うなった。
 とりあえず誕生日だからLINEを送ってみようかな。一応【友達】ってことでもあるし。次のメッセージが一年後になるかもしれないけれど、深く考えないことにした。
「久しぶりです。数井です。覚えてますか?」
 超速で既読が入り、レスが来た。
『数井くん、お久しぶりです。まだ眼鏡ですか?』
 何が言いたいのかわからないレスだった。まるで自分があの後、眼鏡を卒業しちゃったよ、てへっ☆ とか続きそうなレスだ。これは待ったほうがいいか? と悩むうち、遠藤くんからもう一個レスが来た。
『数井くん、何かあった?』
 いきなり何かあった前提で聞いてきた。意図がよく読み取れないレスだ。僕のことを名探偵コナンみたいにトラブルの多い日常生活と思っているのだろうか。というかもう完全に誕生日おめでとうとか言い出すタイミングを逃して、腹の探り合いになりそうだ。
 何かを警戒されている。話題を変えよう。
「あの女の子は元気?」
 既読になって、十分間――時が進んだ。
 えっ。待って、待って、挨拶代わりなんだけど、まさか僕があの真ん中分けの女の子が気になってるとかそんな誤解してないよね。てか、そうか彼女みたいなポジションだったし、誕生日だし、まさか今隣りにいて二人でLINEの画面見て「きも~い」とか言い合ってたらどうしよう。しかし、ここで会話をやめるともっと怪しい。ううむ。
 なんてコミュニケーションが難しい相手なんだ……と黙って長考していたら、遠藤くんからようやくレスが来た。
『……よくわからないや。そっちは?』
 いやいやいや、「よくわからない」とか! 別れたのか?! これ、別れちゃった空気だよね。じゃあ、LINEのヘッダー画像は想い出の結晶なの? 銀河さんは「女の子は上書きしちゃうけど、男の子はフォルダ保存なんだってね」とか曖昧なことを言ってたのを思い出したけど、フォルダ保存どころかフォルダ全開じゃないか。
 うわああっ、完全に地雷を踏んだ。向こうから『そっちは?』って逆に聞かれちゃったけど、何を答えたらいいんだ。「一応、楽しくやってるよ」とかスカして言ったら、三十分既読ノーレスとかあるだろ、この流れは。遠藤くんの誕生日だしな。手榴弾を放り込むような真似は同じ眼鏡同盟としてすべきではない。
 と黙考しているうちに、五分間既読ノーレスが続いてしまった。まずい、このままだと向こうも僕とふみちゃんが微妙な関係になったと疑ってしまうかもしれない。いや、でもそこまで踏み込んで考えるかな。僕のヘッダー画像は今一番お気に入りの眼鏡の写真にしているし、隙は無いはずだ。しかし、さすがに何か返そう。
 向こうの雰囲気に合わせてこちらも暗めに返そう。
「いや……今までと何も変わってないよ」
 しょんぼり系のスタンプも送っておこうかな。そのほうが遠藤くんも安心するだろう。
 話題を変えよう。
「あのさ、今日ってカメラの日なんだよね」
『えっ、数井くんもカメラ興味あるの?』
 スタンプ
『どのカメラを考えてる?』
 スタンプ
『もう決めたちゃった?』
 スタンプ
『カメラは通販じゃなくて見て買ったほうがいいよ!』
 スタンプ
 僕が何か返そうとする隙を与えず散弾銃のように遠藤くんは食いついてくる。しまった、こっちのほうがむしろ地雷だった。無類のカメラ好きがしゃべりたくて、レンズは眼鏡しか知らない僕にもわかる話があるのだろうか。あるとしたら【友達】として最後まで聞くしかない。
「風景とか撮りたいんだけど、どんなカメラがいいかな?」
『どんな風景?』
「え、あ、神社とか、公園とか」
『ああ、それなら、おすすめのがあるよ!』スタンプ
 そこから溢れ出すカメラの説明は超精密だった。しかし、たくさんのスタンプによってほとんどの細かい情報が上にスクロールしてしまったので、僕は「うん」「なるほど」「すごいね」の三語を繰り返し使うだけだった。ふみちゃんの不思議なものの雑な説明のほうがまだ理解できた。残念ながら、遠藤くんのカメラに関する知識はカメラ好きにしか通じないと内心思ったが、それは最後まで言えなかった。
 話を終わらそうと思った。そろそろ宿題をしなければならないのだ。
「まあ、でも、お小遣いは新しい眼鏡に使っちゃうから、カメラはまだ先かなー」
『眼鏡なんて何でもいいじゃん。カメラのほうが奥が深いよ!』
 スタンプスタンプ
『いつでも相談に乗るよ!』スタンプ
 その瞬間、僕の眼鏡のレンズにひびが入る音がした。川底の町で【暗い眼鏡同盟】として決死の戦いをした男子中学生であったが、事実上の解散宣言とも思える話を終えた後、そっとLINEをブロックした。

 宿題を終えてお風呂に入った後、こんなやりとりがあったことをふみちゃんに電話で話したが、ふみちゃんは遠藤くんのことをぼんやりとしか覚えていなかった。僕よりも暗い眼鏡だったことは覚えていたが、カメラを持っていたことも忘れていた。説明を変えて、ラムネの空き瓶をくれた男の子だと話してようやく「あっ、綿菓子ヘアの人ですね」と思い出したくらいだ。ふみちゃんは別行動だったし、とにかく髪型が印象的だったようだ。
 それにしても綿菓子ヘアはちょっとあんまりだったので、ふみちゃんに「違うよ」と返そうかと思ったが、別に間違ってなかったのでそのままにした。とりあえずふみちゃんが他の男子に興味がなくてほっとして、次に新しい眼鏡を買うとしたら【暗い眼鏡同盟】と言われないように明るい眼鏡を買おうと思って引き出しに溜めてある眼鏡店のチラシやカタログをゆっくり眺めるだけだ。

(了)
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「後輩書記とセンパイ会計、百年の積読に挑む」

 開架中学一年、生徒会所属、有能なる書記のふみちゃんは、時代が違えば紫式部の後輩にだってなれただろう。ふみちゃんは小学生時代、課題図書の宿題が出る前からその本を読んでいたほどの上級者だったらしい。しかし、いまふみちゃんの消息を追う一年先輩の生徒会所属、平凡なる会計の僕は、およそ吊り合わないほどの本離れで、数学が得意な理屈屋で、眼鏡を夏用に新調したばかりだった。
 七月二十三日、プールが終わった後、僕は会計の仕事をすべく生徒会室に入った。ふみちゃんからボランティア活動の領収書を預かるはずだった。だが、部屋は空っぽだ。机のパソコンはついたまま。冷房は効いている。ふみちゃんは小さくて暑さに弱いのだが、節電のできる子だ。そんな僕のお墨付きはともかく、ただならぬ気配で待っていると、ふみちゃんの透明なプールバッグから勝手に花柄のしおりが飛び出して、空中でくねくね踊り、無言で僕に何か訴えだした。振り返っても結局僕しかいないので、パソコンと冷房を切り、後を追うことにする。途中、携帯にかけたが電話に出なかった。声さえ聞ければあと十倍勇気が出るのだが、僕はただ使命感で走った。
 このためにわざと残してあったような旧校舎。三階の第二図書室は、名家が寄贈した古い本や書簡が収められていると聞くが、僕には塵の山も同然だ。しおりの導き通り図書室に着くと、鍵が開いていた。中にノースリーブで赤い消火器を構えるふみちゃんもいた。
「数井センパイ! 燃えてるんです!」
 だが、何も燃えていない。声に出して言うほうが良かったか。埃っぽい巨大な本棚に向かい、ふみちゃんが細い足で踏ん張っている。文系の女の子に見えて理系の僕には見えない何かがあるのか。あるとすれば探るしかない。
「なっ、なにがそこで燃えている?」
「百年分の手紙です!」
 そこから溢れ出す状況説明は雑だった。男に想いを寄せた女がいて、男が早くに死んだことも知らず百年間返事のない手紙を出し続けた。やがて百年目、加重圧と夏の暑気でついに燃え出したと涙を浮かべて訴える。花柄のしおりがくねくねおろおろ飛び回る。おうおう。うむ、これは仕方ない。僕の出番だ。
「ふみちゃん、いくらきみでも人の手紙に触れちゃいけない!」
「でも、センパイ、燃えちゃってる!」
「当然だよ! それこそが百年の想いの強さだ! 誰にも読まれず灰になるべきだ!」
「うっ……!」
 僕はこの隙に見えない火の粉から離そうと、消火器を抱えたふみちゃんを抱っこして図書室から駆け出した。途中、階段で下して手を引いたり、ベンチに座らせ落ち着かせてあげたり、夏の勢いで少しキスをしたりした。
 旧校舎の第二図書室はいまも埃っぽいままで、僕もふみちゃんとは別に進展はない。九月になり、文化祭準備の領収書を整理し、一週間の仕事を終えてふみちゃんと帰るだけだ。

(了)


ゆるふわ妖怪小説本『後輩書記シリーズ』の記念すべき第一作目を試し読みのために公開します。
盟友・高橋京希さんがこのシリーズにインスパイアされて書いてくださったWeb連載小説です。
応援お願いします!

関連作品について(後輩書記シリーズ公式サイト)

高橋京希さん作/後輩書記とセンパイ会計Tribute 燃える塵戦記 新米図書委員と塵塚怪王、電子の恋文に悶える

高橋京希さん作品の感想は、ぜひ彼のブログへどうぞ!

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転身  (作:青砥 十)

前置き。
これは「超短編マッチ箱SFファン交流会出張編」に青砥十名義で投稿した作品です。(※募集は終了しています)山下昇平さんのオブジェをお題に500文字以内で(広義の)SFを書くという企画でした。お題のオブジェはこちら

まずはオブジェをご覧いただき、それでは、私の作品をどうぞ。



転身


 私は男を諦めるために蛇を飲んだ。毒を持たない生きた蛇。その蛇はなぜ自分が私に飲まれるか知らないだろう。しかし、せめてもの抵抗で私のおぞましい胃液に消化されまいと、鱗を頑丈な鋼に変えて飲まれていった。蛇の鱗は唇を擦り、咽喉、食道から胃袋へ落ち、その先は私にもわからない。
 男は私を諦めるために鉈を持った。持ち主のない錆びた鉈。その鉈はなぜ自分が私を割くか知っているだろう。だから、あさはかな顛末で私のおぞましい濁血に腐蝕されまいと、刃を鈍らな身に変えて割いていった。鉈の刃は唇を開き、恥丘、臍下から鳩尾へ昇り、その先は私にもわからない。
 男が去った後、蛇と鉈は出逢った。蛇は私の体内で願望を吸って巨大になっていた。鉈に割かれずとも自力で私から出られるほどに成長していたのだ。それでも蛇は鉈に義を感じ湧き出す新しい力で抱擁した。鉈は私のおびただしい血に濡れた蛇を忌み、鱗を斬りつける。けれども鋼の鱗は硬く、鉈はあえなく鉄塊と化した。私は棒同然の鉈を拾い、我が子のように抱き締める。
 われの抜けた腹を埋めなさいと告げる蛇に従い、私は私を諦めるために鉈だったものを飲んだ。やがて私は男の要らない機械になる。

(了)

 

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ジャンル : 小説・文学

妖精をつかまえる。

 先生は地球の裏側からやって来た。来て早々、僕たちは想像力が足りないと言われた。先生は南アメリカの小さな国の小学校で日本語教師をしていたらしい。
 一学期の終わり、夏休みの宿題が出された時、先生は黒板に自由研究のテーマをでかでかと書いた。妖精を見つけてきなさい、と言って学校が終わった。
 親に聞いてもネットで調べてもわからない。友達と話すと、ある子は水の妖精を探すと言った。ある子は火の妖精を探すと言った。歌とか花とか石とか道とか闇とか心とか化石とかみんな違うものを言った。
 妖精が決まらなかった帰り道、僕は草むらの真ん中に立つ鉄塔に目を止めた。看板に送電塔と書いてある。見上げるとたくさんの電線が空をかけめぐっていた。
 先生は、いると思ったら何でもいい、と言った。
 なら、僕は電気の妖精でも探そうか。コイルというものを知り、僕は何が見つかるかわからないけれど、とにかく電線を巻いてみている。

(おわり)

 

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ジャンル : 小説・文学

「後輩書記とセンパイ会計、銀梅の囁きに挑む」(作:青砥十)

 開架中学一年、生徒会所属、有能なる書記のふみちゃんは、時代が違えば漫画の神様と称される手塚治虫の親友にだってなれた――は言い過ぎか。ただ、ふみちゃんは小学校時代、自由研究で日本の漫画の歴史と変遷をみっちり調べて、新聞に取材されたほどの上級者だったらしい。もちろん、ふみちゃんは漫画だけでなくすべての本が好きで、歩いて行ける近所の図書館に通い、ありとあらゆる分野を読み込んでいるらしい。
 しかし、いまふみちゃんと一緒に近所の図書館に訪れた一年先輩の生徒会所属、平凡なる会計の僕は、およそ吊り合わないほどの本知らずで、数学が得意な理屈屋で、一応今日は読書用の眼鏡を持って来たが、試しに『まんが・世界のめがねの歴史』というのを一冊借りて机に広げたところだった。何の需要でこんな本を作ったんだろうか。
 そんな、二月九日。日本漫画に詳しいふみちゃんの話では、今日は手塚治虫の命日で、「漫画の日」に制定されているそうだ。それもあり、図書館では普段は書庫に保管されている古い漫画雑誌が展示されていて、ふみちゃんはそれを鑑賞しに行きたいと言い、僕はコートに身を包んで何となくついて来たのだった。ふみちゃんは黒髪を両サイドに自然に分けてリボンで結んでいるが、珍しく真っ赤なリボンで黒と白のラインが入っている柄だった。何か理由があるんだろうか。
「今日は白いリボンじゃないの?」
「数井センパイ、違います。これは手塚先生の女騎士のリボンです」
 と、即座に否定されてもいまいちピンと来なかった。手塚治虫の作品に何か関係あるんだろうか。館内でコートとマフラーを脱ぐと、ふみちゃんの今日の服は、青地に白い大きな襟と肩が丸くふくらんだデザインで、青いスカートにベルトをつけ、白タイツと白い靴だった。制服姿を見慣れているが、青と白を取り合わせた私服も似合っている。
 とりあえず、手塚治虫の描いた初期の漫画本も何冊か展示されているらしく、ふみちゃんの横からショーケースを覗いてみると、古い漫画のいくつかは大判のカラーで、紙が一枚一枚分厚い感じだった。昔は絵本みたいだったんだな、と少し驚く。今のコミックスの軽さとは全然違い、この頃はカバンに入れてちょっと読むという生活スタイルではなかったみたいだ。最近ではタブレット端末で読んでいる人もいるらしいから、当時の漫画家たちが見たら目を丸くするのではないだろうか。
 いろんな古い漫画の展示品を一通り見終わると、ふみちゃんは今日読むつもりらしい服飾関係と植物の本を数冊取ってきて、イスに座った。僕は隣りに座るか向かいに座るか一瞬迷ったが、ふみちゃんが隣りのイスをぽんぽんと手で叩いたので、そこに座ることにした。確かに静かな図書館ではこっちのほうが小声で話しやすい。というか、図書館で小声で話すというのは、どうしてこんなにドキドキするんだろうか。
「数井センパイ、今日は『服の日』でもあり、『福の日』でもあるんですよ」
「んっ? ん?」
 ふみちゃんが漢字の違いと由来を説明してくれる。要するに語呂だった。「福の日」ってのは縁起がいいね、と僕は答えた。
「はい、だからこの日に生まれた人は、幸福なのは義務なのです」
 何だかどっかで聞いた気がするフレーズだが、まあ、よく思い出せないからいいか。
 ふみちゃんはまず植物の本を広げた。索引で誕生花を引いてみると【ギンバイカ(銀梅花)】という小さな白い可愛らしい花が出た。写真を見ると、白いおしべが線香花火みたいに放射状に咲いた花だ。
 ただ、驚いたのはそれがフトモモ科フトモモ目と書いてあることだった。植物学者は一体どういう分類をしたんだ。どう見てもこの白い花が太ももには見えないし、白タイツのふみちゃんの太ももを見ても、いや、たまたま今日は白で共通しているだけだけれど、そんなのは関係ないはずだ。

ギンバイカ(銀梅花)

「数井センパイ、違います。フトモモは【蒲桃】という字を書くんですよ」
「えっ……いや……」
 何も言ってないのに、ふみちゃんがノートに正しい漢字を書いてくれた。僕はももが桃だと知り恥じ入ったまま、返答に詰まる。そんな僕の戸惑いを見透かして責めるつもりかわからないが、ふみちゃんはイスを動かし、僕のそばにさらに寄ってきた。緊張するほど近い。
「銀梅花は、花言葉がとっても素敵なんです。ギリシャ神話の女神がこの花に変えられた伝説からみたいですけど、花言葉は『愛の囁き』なんですよ」
 で、言葉を止める。目をじっと覗き込んでくる。
 ぼっ――僕にどうしろ、と。何を囁け、と。
 呼吸を整えて、話を総合する。文系の女の子に言えて理系の僕に言えない何かがあるのだろうか。あるとすれば探る――いや、頑張るしかない。
「かっ……可愛い服だね」
 ふみちゃんの笑顔がふんわりと花が咲いたように明るさを増す。
「数井センパイ、好きですか? これ、お母さんが作ってくれました!」
 喜んでくれて緊張が少しほぐれる。
「いいと思うよ。うん、すごく、いい。ふみちゃんに似合ってる」
「銀梅花は二月九日の誕生花ですが、花が咲くのは六月なんです。写真じゃわかりませんけど、とっても香りのいい花なんですよ。純潔の白の象徴として、結婚式のお祝いで花嫁のブーケにも使われる花なんです。だから、この花に縁がある人は、周りのいろんな人に祝福されて、幸福になるのは――義務なんです」
 僕は、ひとつの物がこの時代まで愛され続けた由来を知り、それをこんなに楽しそうに語るふみちゃんを素直に愛らしいと思う。ただ、ちょっと興奮して囁きを超えている気がした。僕はふみちゃんの頭を優しく撫でる。
「女神の成り変わりなんだね」
「はいっ。数井センパイ、合ってます」
 今日は久しぶりに図書館へ一緒に来て、『愛の囁き』という花言葉を知ったけれど、ふみちゃんとは別に進展はない。眼鏡の歴史の本を半日かけて読み終えて本棚に返した後、閉館時間の放送にも気づかず夢中に本を読んでいるふみちゃんの背中をぽんぽんと叩き、コートとマフラーを着て、寒空の二月、ふみちゃんの家まで送ってあげるだけだ。

(了)


青砥です。二月九日の誕生花にちなんだ話を書きました。
お読みくださり、ありがとうございました。
気に入ってくださったら、拍手やコメントやツイートなどぜひどうぞ。

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プロフィール

sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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