ちょっと不思議でちょっと愉快な超短編作品がいろいろあります。
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2009.09
04
(Fri)

「まだ名前はない」 

 新しい友達というか弟みたいなものができた。まあ一緒に暮らしてるんだから、半分家族と言えなくもない。親の許しは一応もらっていて、基本は私に任せきりだが、それなりに気を配ってはくれている。どうも太陽光だけで生きてるみたいだから食費も気にしなくていい。
 ただ、まったく言うことを聞かないし、何もしない。背中のタグには名前を呼べば何でも命令できるとあるのだが、拾いものだから肝心のそれがわからないのだ。一日三個思いついた名前を言うことにしているが、それがもう二ヶ月も続いている。
 ときどき着替えをしていると、そいつはピクッと微妙な反応をするのだが、そういう時はますます言うことを聞かなくなる。少し落ち着いて膝枕をしながらクーラーを弱めると、いつものようにテレビが見たい、コーラが飲みたいと言い出した。
 今日三個目のチャレンジをするが、やっぱりコーラコーラと言うだけだった。

(了)

 
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2009.08
08
(Sat)

「アメクジラ」 

 ガウディは十歳の春にそれを見つけた。
 寒い砂浜にどっかりと横たわり、もっと広い別の海へ引っ越す日を待つアメクジラ。その名はガウディがつけたもの。
 それは水が充満した巨大な透明チューブにヒレがついたような生き物だった。いつ見ても相変わらずよく眠り、ガウディがいくら体を叩こうと気泡がプルプル震えるばかり。

 油断していると、夕暮れをすっ飛ばして、ガウディは冷たい夜にひと飲みされる。
 灯りのない砂浜に単調な波がごうごうと低く鳴っている。青白く濡れたカニたちが海からびっしり押し寄せて、カシャカシャとアメクジラを取り囲み、のんだくれコラ、のんだくれ、と合唱すると、アメクジラの輪郭線は目を凝らしても見えなくなり、気泡は高く立ちのぼり、夜の群雲とつながっていく。
 ガウディは小さな悲鳴を漏らしたが、気泡は静かな海を見下ろしながら、荒く噴きあがるばかり。何か存在の名残を掴もうとするものの、輪郭のなくなった生き物は手で捕えられるほど有限でないことを知る。

 次の日、家族や友人に話すと、誰もが口を揃えてそれは巨人の死だと答えた。春に、海辺で、巨人は死を迎えるのだという。知らないのはガウディだけだった。

(了)


※読んだらぜひweb拍手をクリックください。コメントも大歓迎。
2009.08
05
(Wed)

「シンクロ」 

 北方諸島の遥か先、ユーラシア大陸とアメリカ大陸が向かい合うベーリング海に、世界中のイカが集結していた。ロシア、アメリカ、カナダ、中国など生まれた海域によって群をなし、一糸乱れぬ壮麗な舞いを披露する。冷たい海の中でそれを静かに見つめる水の民。
 元よりイカに国籍はない。だが、ここに集まるイカは、それぞれが馴れ親しんだ地域風土の影響を受け、色も形も紋様も百花繚乱のさまとなり、祖国への帰還を絶たれた幾世代もの水の民を深く魅了する。
 体表にホクサイの大胆な色彩が浮かびあがった小ぶりなイカが、きびきびと長い二本の足先まで神経を張りつめて繊細優雅に舞い踊る。水泡が七色のビー玉のように煌めき、永字八法の手本のごとく、止め跳ね払いを艶やかに描きだしていく。

 海上のさらに上の空域を、超重量のイカが一糸乱れぬ統制で群れをなし、遥か地へと向かっていく。艦上でそれを静かに見送る水上の民。彼らは探知機でたまたま海中のおびただしい魚群の数に気づいたとしても、そこに繰り広げられる祖国の舞いをまだ知ることはない。


(了)
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2009.05
27
(Wed)

「期限切れの言葉」 

 二人で作った自慢の庭で、ツツジやシャガの花が一斉に開きはじめた。数年前は小さかった苗木が、今年はすっかり存在感を増していた。
 今の妻は、まだ土いじりに慣れない手で、自分が買ってきた好きなパンジーをせっせと植えている。
 縁側から一望すると、乳白色のフジが枝を伸ばし、そろそろ組み木の棚を欲しがっているようだ。きっとあれがここにいたら目を細めてそう言うに違いない――
 子どものいない私たちにとって庭は、心の住む場所だった。ここには恨めしいほど一年中絶えず美しい色があり、一度は孤独の深淵に沈んだ心を、時間をかけて照らしてくれた。

 今朝、検診に行った妻は先生に元気な心拍音を聞かせてもらったらしい。私の人生にこういう日が来るとは夢にも思わなかった。
「ありがとう」
 庭に向かって声をかけると、
「……こんな感じでいいよね?」
 晴れがましい笑顔でジョウロを左右に振りながら、少し控えめな言葉を返してくれた。


(了)
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2009.05
03
(Sun)

「音撃の島」 

 ブリキの兵隊は、絵に描いたように等間隔で三列に並ぶ。ピカピカの軍服に身を包み、よく磨きこまれたラッパをハイ、構え。最後方の三列目はバルブのつまりをスコスコ吹き出す。二列目は胸を広げて深呼吸。一列目は標的を見定めていざ発射!
 見よ、寄木細工の木馬にまたがった敵兵たちのどんぐり帽子がスポン! 炭酸水の王冠をかぶった王様は、宙を舞う帽子を数えて大笑い。
 島はみんなの宝もの。世界中から腕利きのラッパ職人が大志を抱いて舟を漕ぎ毎年毎年やってくる。街灯もポストも鳥かごも哺乳ビンだってみなラッパ。
 やがて、海岸線に巨大な寄木細工の艦隊が押し寄せる。王様は、なんてことないと高笑い。両手の金ラッパで指揮をとり、兵隊は三列になって迎え撃つ。特大の深呼吸、いっせいのせで吹き鳴らす。艦隊の帆をパーン! と撃ち破り、水平線の彼方まで押し戻す。
 島はみんなの宝もの。王様は緑かがやく海を見渡し、国民に囲まれながらシャンパンの栓を抜く。シュポン!

 
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Author:sleepdog
オンライン作家としてぼちぼち活動しています。群馬県出身、東京都在住、広告会社勤務の30歳、男です。どうぞよろしく。

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本館(短編):Sleepdog's Salon
旧館:マイクロスコピック旧館
企画主催:犬祭

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ブランバー
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