青い瞳の少年は夢精のあった次の夜、祖母に連れられ書斎へ通された。燭台の向こうに浮かぶ祖母の横顔をうかがえば、年老いた指が棚の埃をずるりと掬い取る。この館はかつて帝政が革命で蹂躙された日から代々続いてきたと云う。
祖母は、少年の呼吸を乱す戸惑いを嗅ぎとり、椅子から立ちあがった。杖の先を天井の鍵穴に差し込み、鉄の扉をはねあげる。祖母の細腕にどうしてそんな力があるのだろうか。少年は扉のかげに何かが手伝う気配を感じた。
祖母の尻に続いて梯子を昇り、屋根裏へと潜りこむ。すえた匂いに灯火をかざせば、日の差さぬ一室に帝国調の寝台が安置されていた。胸を焼く甘い香り。飴玉だ。孤独な寝台を慰めるように無数の飴玉がまわりを埋め尽くしていた。
少年はガラスの花畑を危ぶむようにして進む。はめ殺しの天窓から新月が流れこむ、遠くで弦楽奏が鳴る、寝台のそばで飴玉の絨毯が小さく窪む。じゅら。遠慮がちに。じゅら。
そこで止まっておいで――何ものかが物陰でどちらへともなく告げる。少年は振り返り飴玉の海をやみくもに掻き分ける。やがて睾丸が片方こぼれ落ちると、窪みは足早に駆け寄って、白い指でそれをどろりと掬い取った。
<了>
祖母は、少年の呼吸を乱す戸惑いを嗅ぎとり、椅子から立ちあがった。杖の先を天井の鍵穴に差し込み、鉄の扉をはねあげる。祖母の細腕にどうしてそんな力があるのだろうか。少年は扉のかげに何かが手伝う気配を感じた。
祖母の尻に続いて梯子を昇り、屋根裏へと潜りこむ。すえた匂いに灯火をかざせば、日の差さぬ一室に帝国調の寝台が安置されていた。胸を焼く甘い香り。飴玉だ。孤独な寝台を慰めるように無数の飴玉がまわりを埋め尽くしていた。
少年はガラスの花畑を危ぶむようにして進む。はめ殺しの天窓から新月が流れこむ、遠くで弦楽奏が鳴る、寝台のそばで飴玉の絨毯が小さく窪む。じゅら。遠慮がちに。じゅら。
そこで止まっておいで――何ものかが物陰でどちらへともなく告げる。少年は振り返り飴玉の海をやみくもに掻き分ける。やがて睾丸が片方こぼれ落ちると、窪みは足早に駆け寄って、白い指でそれをどろりと掬い取った。
<了>

この街もまたなす術もなく暑くなり、一週間も続けてスコールが降るようになった。ずっと冷房をつけっぱなしなので電気は自然と不足し、最近のビルは今更エコマーク入りのソーラーパネルを大きく広げ、陽射しも雨もさえぎっている。でも、それで地面に恵みが届かないわけでなく、パネルのあい間から滝のように結局流れ落ちてくるのだ。光が水に乱反射し、街の景色も瞬くごとに移り変わる。
「うひゃあ、たまんないね!」
参ってるのか悦んでるのか、おこぼれを浴びたヤシの木は声をあげて騒いだ。大柄な肩をふるわせ、頭のなかを洗うように伸びをする。リサが上目づかいに押し黙っていると、ヤシの木は「もうそんなこわい顔すんなよ」と腕をとり、湿ったからだに引き寄せた。
やっぱり会うんじゃなかった。リサは前髪で瞳を隠し、甘える心を一言ずつ噛みつぶす。でも、枝葉のあい間から棒のように流れ落ちてくるのだ。
髪もシャツもビリジアンのスカートも濡れてしまう。今日のために買ったのに。鼻をすするリサの足元に小さなヨシガモがひと休みに寄ってきた。スリットのあい間からも糸のようにみんな流れ落ちていく。そして羽のあい間からも、道に芽ぶく双葉へ向かって。
(了)
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