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はるをさがして (作:りい) ♪希望のポケット童話

 はるがきた。
 って、どこに?

 あたたかいなあっておもうひもあるけど、さいきんはずーっとさむいんだ。
 くちからでるいきはしろいし、ゆきがふるときもある。
 もうすぐしがつなのにさ。

 あさはふとんからでるのがたいへんだ。
 からだがぶるるってふるえる。
 かおをあらうおみずはすごくつめたい。
 ゆびがじんじんいたくなる。
 そとにあそびにいくと、かぜがぴゅうってふいてくる。

 これって、まだふゆってことじゃないの?
 だからぼくは、どこにはるがきているのかをきいてみた。
 こういうときおとなはへんなことをいってくる。
「いいからはやくねなさい」
 ごまかしてるつもりかもしれないけど、そんなのぜんぜんこたえになってない。
 いいもんね。おしえてくれないなら、じぶんでさがしにいってやる。
 はるさがしのぼうけんにぼくはでた。いきさきはおもいきって、まちはずれのはらっぱだ。

 ひゅるひゅるひゅるひゅる。
 かぜがふくと、ほっぺはハリでちくちくさされたみたいにいたむ。
 かさかさかさかさ。
 ちゃいろいはっぱがあしのまわりでくるくるまわる。
 はるをさがすんだからと、マフラーとてぶくろをいえにおいてきちゃったのはだいしっぱいだ。
 さむくてさむくて、あっというまにからだがこおりみたいになった。

「たっくん、なにしてるの?」
 となりのいえのみうだ。
 みうはぼくよりみっつもとしうえなくせに、あんまりおねえちゃんってきがしない。

 それに、よくわからないことをときどきいう。
「はるをさがしてるんだ」
「はる?」
 みうはいっしゅんだけぽかーんとくちをあけて、
「あのね、たっくん。はるはすっごくてれやさんなんだよ。
 それにね、かくれんぼがじょうずなの。
 だからでてきてもすぐいなくなっちゃうし、さがしてもなかなかみつからないんだよ」

 ちいさなこえでおしえてくれた。
 ないしょばなしをするときみたいに、みみのそばではなすから、ちょっとくすぐったい。
 すこぅしだけ、あたたかくなったきがした。

(おわり)


著作権は作者にあります。

未来に夢と希望を、そして灯火を。ポケットの中の童話。

テーマ : 児童文学・童話・絵本
ジャンル : 小説・文学

満開の桜の木の下で (作:橋本邦一) ♪希望のポケット童話

満開の桜の木の下で、カズくんはお父さんとお花見をしていました。
カズくんはお父さんがつくってくれたおにぎりをほおばりながら、ちょうど一年前に天国にいってしまったお母さんのことを考えていました。
『お母さんのおにぎりはなんでおいしいの?』
『カズくんのことが大好きっていう気持ちをこめてやさしくにぎるからよ』
『お父さんがたまにつくってくれるおにぎりはあんまりおいしくないけど』
『おにぎりをにぎっているお父さんのことをよく考えて食べてみて。きっとおいしいから』
カズくんはお母さんの言葉を思い出し、桜を見ているお父さんのことを見つめてみました。
お父さんは何かを思い出すような顔で桜を見ています。
よく見ると、お父さんは目にうっすらと涙をうかべています。お父さんの涙を見て、カズくんは思い出しました。カズくんが夜中、トイレにいきたくて起きた時、お父さんが台所でお母さんの写真を見て泣いていたことを。そんな夜が何度もあったこと
を。
お父さんも悲しかったんだ。そんな当たり前のことに、カズくんはあらためて気がつきました。
『お父さん』
カズくんは自分でも気がつかないうちにお父さんの名前を呼んでいました。
『なんだい』
お父さんはいつものように優しく笑って応えてくれます。
でもその笑顔の奥にはたくさんの涙があることを、今のカズくんは知っています。
『なんだい』
カズくんが黙っているので、お父さんが尋ねます。
カズくんは困ってしまい、思いついたことを言葉にしました。
『お父さんはおにぎりつくるときどんなことを考えているの?』
お父さんはちょっと困った顔をしましたがすぐに優しく微笑んで言いました。
『決まっているじゃないか。和夫が大好きだよって思いながらにぎっているんだよ。
どんな親でも子供におにぎりをにぎる時は、大好きの気持ちをこめてにぎっているんだ』
お父さんはおにぎりをにぎるしぐさをしながら言葉をつなげました。
『大好きの気持ちをこうやってつつみこんで優しく抱きしめるように祈りをこめてにぎるんだ』
『魔法みたいだ』
『おにぎりは大好きの気持ちを届けてくれる魔法なんだよ』
カズくんはお父さんのおにぎりを一口食べてみました。美味しい。さっきまで食べていたおにぎりとは全然違う食べ物みたいな味でした。カズくんはおにぎりをもう一口食べてみました。やっぱり美味しい。
カズくんはお父さんに聞きました。
『おにぎりが大好きの気持ちを届けてくれる魔法の食べ物なら、僕がつくったおにぎりでもお母さんへの気持ち、届くかなあ?』
お父さんはカズくんの目をしっかりと見て言いました。
『必ず届くさ。人が人を想う気持ちはどんな時でも一番強いものなんだ』
『お母さんはもうおにぎり食べられないけど、それでも大丈夫?』
お父さんはカズくんを抱き寄せて言いました。
『お母さんはいつも和夫のそばにいるよ。ほら、見てごらん。お母さんが大好きだっ桜だ』
カズくんとお父さんはハラハラと舞いおちる桜の花びらを見つめました。
お父さんはカズくんをぎゅっと抱きしめて言いました。
『まるでお母さんの笑顔につつまれているみたいじゃないか』
桜の花びらにつつまれながらカズくんは強く願いました。
この想い、桜の花びらにのり、届け。

(おわり)


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未来に夢と希望を、そして灯火を。ポケットの中の童話。

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あめがふる (作:三里アキラ) ♪希望のポケット童話

 最近ずっと晴れが続いていて、僕たちはのどが渇いていたんだ。
 ラジオの天気予報。聴いていたら待ちに待ったこの言葉が。
「明日はくもり時々あめでしょう」
 新しくした長靴と、新しくした傘を持って、出かけることにしたんだ。

 翌日。空はくもっていた。けれど不思議な雲だった。虹色なんだよ。
 あれえ? って思いながら、長靴履いて傘を持って、お散歩。
 お母さんは「遠くに行っちゃだめよ」と言う。

 長靴カポカポ言わせながら、近くの公園まで歩いたよ。
 空はだんだん暗くなって、パラリ、と音がした。
 傘を開いたよ。カエルが笑ってる緑の傘。
 バラバラバラバラとあめが降り出した。

 うん、飴玉が降り出したんだ。
 セロハンでラッピングされた色とりどりのキャンディ。
 傘があってよかった。これ、頭に当たったら痛そうだもの。

 落ちたキャンディを拾って、ラッピングを外すとまあるいミルクキャンディだった。
 ぱくん。
 落ちたものを食べちゃいけませんってお母さんはよく言うけど、内緒。
 すごく甘くて僕はにんまりした。
 けれど、甘さでのどが渇いてきてしまったので帰ることにしたんだ。

 家に帰るとお母さんが出てきて言った。
「すごい雨ね、ぬれなかった?」
 え? と思って後ろを見ると、ちゃんと雨が降っていた。土砂降り。
「うん、全然ぬれなかったよ」
 そうお母さんに言って、僕はうきうき気分で窓から雨を眺めているんだ。

(おわり)


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やさしい嘘 (作:橋本邦一) ♪希望のポケット童話

桜の花が咲く公園で五歳くらいの女の子が、数時間前に「すぐもどるからね」といってさっていった母親を待っていました。日がくれてきても母はもどりません。女の子は母親がもどってこないことを予感していましたが、信じたくありませんでした。だから桜の花に聞きました。
「お母さん、もどってくるよね」
桜の花は少し迷ってから、やさしい声で答えました。
「きっともどってくるよ。今は事情があってもどれないかもしれないけど、いつかきっともどってくるよ」
それから女の子は、母親に会いたくなるとその桜の木の下にきて、その時抱えている悩みをつぶやくようになりました。
中学や高校の入学式や卒業式、進路のことやボーイフレンドのこと、就職のことや結婚のこと。
女の子は桜の木に語りかけながらどんどん成長して大人の女性になっていきました。
ある日、大人になった女の子は、昔の自分にそっくりな五歳くらいの女の子の手を引いて桜の木の下に来ました。
「この桜の木はね、お母さんのお母さんなの」
「なんで桜の木がお母さんなの?」
「いつでもそこにいてくれて、私の話すことを何でも聞いてくれて、やさしく包み込んでくれるから」
「でも、人間じゃないよ」
「人間だけが生きているわけじゃないの。虫だって動物だって草だって花だって生きているの。生きているってことは必ずお母さんがいる。だから、この桜の木は私のお母さんなの」
春の陽だまりの中、二人は桜の木の下でそんな会話をしていました。
桜の花はにこにことやさしく微笑みながら二人の会話を聞いていました。
年月が流れました。
昔、五歳だった女の子もおばあさんになっていました。
つえをつき、まがった腰をいたわりながら桜の木の下に立っています。
おばあさんは長い間、静かに桜の木を見ていました。
いろんなことを考えていました。
自分のこれまでの人生を思いかえしているうちに、誰かにほめてもらいたくてたまらなくなりました。
もちろん、ほめてもらいたい人はただ一人です。
「お母さん」
おばあさんは桜の花につぶやきました。
「よくがんばったね」
おばあさんの後ろでなつかしい声がしました。
おばさんがふりかえると、昔のままの姿のお母さんが立っていました。
遠い昔、自分が五歳だった時、ここで別れたお母さんが立っていました。
「お母さん。ずっと見ていたよ。いつもお前のことを見ていたよ。お前はがんばって生きてきた。えらかったね」
「お母さん」
その時、おばあさんは五歳の女の子にもどりました。
女の子は走っていき、お母さんの胸にとびこみました。
「お母さん、お母さん、お母さん…」
女の子は涙でぐしょぐしょになった顔をお母さんの胸にうずめて、今までずっと胸にためていたその言葉を思いっきりぶつけました。
お母さんはその言葉を、女の子の想いをやさしく全部受けとめてくれました。
「いい子だ。いい子だ。お母さん、ずっとそばにいてあげるからね。お前の話を全部聞いてあげるからね。だから安心して今はゆっくりと休みなさい。いい子だ。いい子だ。いい子だ。いい子だ」
女の子は、自分が泣いたとき、お母さんが背中をやさしくたたきつぶやいてくれたその言葉を聞きながら永い眠りにつきました。
風が吹いてきました。
桜の花がやさしく風の中をゆれています。
風にゆれた花びらはやがて、桜の木の下に横たわるおばあさんの体をやさしく包み込んでいきました。
お母さんがかけてくれる毛布のように暖かく、お母さんの愛のようにやさしく、桜の花びらはおばさんを包み込んでいきました。
日がかげってきました。
桜の木はすっかり花を散らしていました。
木の根元には桜の花のじゅうたんがありました。
そのじゅうたんは消えることなく、それからも一年中その場所にあったそうです。
不思議なことにそのじゅうたんの上にたつと、どんな人でもやさしい気持ちになれたそうです。

(おわり)


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ねこじゃらしのゆめ (作:30-06) ♪希望のポケット童話

 めのまえで ふわふわのしっぽが みぎひだり
 えい おさえたぞ
 あれ つめのあいだからにげる
 えい えい えい
 おさえるはしから にげてゆく
 とびかかって りょうてでつかまえた
 かみついて きっくだ きっくだ
 だけどそいつは するりとにげだした
 みんなが わらってる
 なにがおかしいの ぼくはほんきだぞ

 おもいだした
 かあちゃんのしっぽだ
 あの あたたかくてやわらかい おなかのけも
 おもいだした
 にいちゃんのみみだ
 かみついたら かみつきかえされたっけ

 ぼくはおぼえてる めがみえるようになったころ
 つんと はなにくるにおい
 くらくてじめじめした さわがしい たてもの
 そのたてもののひとたちが ぼくらとよくあそんでくれた
 ぼくは くらいはこにいれられて ゆられていた
 そのはこがいやだから ぼくがあばれまわっていると
 はこがひらいて そとがみえた
 ぼくは はこのへりにのりだし きょろきょろ
 あのたてものじゃない あかるくてにぎやかなそとがみえる
 ぼくはもっとおおきな はこのなかにいて
 そのはこが そとをうごいていたんだ
 ふりむくと ぼくといっしょに はこにはいっていたひとが
 にっこりと わらってくれた
 ぼくがつれてこられたさきは ちがうたてもの
 あのへんなにおいも さわがしいおともしない
 ぼくはちいさいひとと いっしょにねた
 だけどあいつは ねぞうがわるくてね
 ぼくはおちついて ねむれなかったよ
 かあちゃん にいちゃん
 どんなかおしてたか おぼえてないけど
 あたたかさだけは おぼえてる
 だけど ひとのあたたかさも いいもんだよ
 
 めのまえで ふわふわのしっぽが みぎひだり
 もう ねてたのに

(おわり)


著作権は作者にあります。
作者コメント:猫は夢を見るらしいですね。なにか寝言も言ってるようで。きっと、暖かくて幸せな夢なんでしょうね。

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プロフィール

青砥 十

Author:青砥 十
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、奈良県在住。どうぞよろしくお願いします。

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