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雲の来歴 (作:三里アキラ) ♪希望のポケット童話

 綿菓子はお口に入るとすぅっと溶けてなくなります。
 お祭りの夜の、綿菓子屋のおじさんがくるくるもわもわと割り箸にからませた甘い甘い飴の雲なのです。
 さて、空に浮かぶ雲はどうでしょうか。
 じつはじつは、これも同じなんですよ。綿菓子が飴の雲なら、雲は雨の綿菓子なんです。
 綿菓子と雲、どちらが先かと問われたら、それはもちろん雲で、綿菓子は精霊が雲を作るのをまねたお菓子なのです。
 大地に降った雨は太陽の光で暖められてとろけます。とろけた雨は軽くなり、空へ向かうのです。精霊たちはイナズマを手にくるくるもわもわと雨をかきあつめ、ふわふわもこもこの雲が出来上がるのです。
 では、その雨の綿菓子である雲は、最後にどうなるのでしょうか。
 空の神様が口にふくみ、すぅっと溶けてなくなります。
 空の神様は雨を降らせることはできても、雨の綿菓子は作れないので、精霊たちをとても大事にして、そして愛しています。

(おわり)


著作権は作者にあります。

未来に夢と希望を、そして灯火を。ポケットの中の童話。
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テーマ : 児童文学・童話・絵本
ジャンル : 小説・文学

あれはなんて鳥だろう (作:JUNC) ♪希望のポケット童話

ピチッとはねた魚が
なんか人魚だった

バッサバッサ
髪の毛を揺らしながら
そうとう高くはねていた

ちょうど太陽の光が
まぶしいところで

下半身のヒレの部分が
スポンと抜け落ちるのをみたんだ

くるっと体を一回転させて
そのヒレをキャッチして

空中でびりびりっと
まっぷたつに割った

おお!
おもわず声を出してしまったら
ちらりと見た人魚と目が合ってしまった

ヒレを片手に持ち替え
人差し指を口に当て
しぃーって僕に合図した

それからまた
くるりと体を一回転させながら
ヒレだったものを両腕にはめ

バッサバッサ腕をふって
高く遠く飛んでいってしまった

あれはなんて鳥だろう
また、逢えるだろうか


(おわり)


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未来に夢と希望を、そして灯火を。ポケットの中の童話。

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ジャックと桃の木 (作:不狼児) ♪希望のポケット童話

 むかしむかし、あるところにジャックという気のいい若者がいました。いい年をして、いまだに定職がありません。どんな仕事についてみても満足に仕事をやりとげることができなかったのです。あるとき病気になってしまったお母さんの言いつけで、子牛を売りに市場へ向かうとちゅう、道をよこぎるカニと顔があってしまい、ついうっかりあいさつをしてまうとあんのじょう、「どこへ行くんだ」とたずねます。「市場へ子牛を売りに」とこたえてしまってから、ジャックはしまったと思いました。お母さんからくれぐれも「子牛を売ってお金にかえるまではだれとも口をきいてはいけないよ。おまえがひと言でもしゃべると、いつだって悪いことになるからね」と注意されていたのです。「おれは腹がへっているんだ」カニは言います。「どうだ。おれのもっている桃の種と、その子牛をかえてくれないか」カニは大きなはさみをふり回してジャックをおどしつけるように、ちいさなひからびた桃の種をさし出すのです。「もんくはないだろう。この種が芽をだして、木が大きくなり、枝いっぱいに桃の実がなるのを見たら、あのとき親切なカニさんにもんくを言わないでよかったとしんそこ思うだろうよ」
 ジャックが子牛と桃の種をこうかんして家に帰ってくると、お母さんはあきれてなにも言いませんでした。でかせぎに行って苦労しているお父さんのことを考えて、すこしだけ涙をうかべ、くすりは買わないともうなかったので、食事もとらずに寝てしまいました。ジャックはさすがにがっかりしましたが、しかたなく庭のすみに種を埋めて、たっぷり水をかけてやりました。あくる朝には芽を出しました。二日めにはジャックの背たけをはるかに越したりっぱな桃の木に成長し、三日めの朝、花は満開でした。お母さんをよろこばせようと花のついた枝を折って病室の花びんにさしたジャックに、「まだ安心はできないよ。だいたい実がつくかどうかもわからないじゃないか」とお母さんはそう言うのでした。日が高くなると花は散り、指のさきほどにふくらんだたくさんの実が、あおあおとしげった葉のあいだにゆれていました。けれども正午までには桃の実のほとんどすべてが落ちてしまいました。夕日をあびて、たったひとつだけ熟した桃は、子どもの頭ほどもある大きなものでした。もぎとろうと、ジャックが手をのばします。すると、どうでしょう。桃はジャックの手の中でまっ二つにわれて、なかからは種のかわりに赤んぼうがとびだしたのです。赤んぼうはてのひらに乗るくらいの小さな男の子でした。ジャックは少しかんがえて桃太郎と名づけました。
 桃太郎をうみおとしたあと桃の木はふつうの桃の木になってしまったようで、来年になってみなければ、また花が咲いて、こんどはたくさんの実がなるのかどうかはわかりません。桃太郎はひと晩でりりしい少年に成長したので、ジャックはちょうどおなじ背かっこうの五月人形の服を着せてあげました。桃太郎はよろこんで、「桃の実はどうしました」とジャックにたずねます。まだ食べないでおいてあるとこたえるといっそうよろこんで、「ここにもってきてください」桃太郎は自分が内部におさまるように、二つにわれた桃の実をあわせます。「こうすると」桃太郎の声が桃のなかからきこえます。「桃の実はぼくの船になるのです」言うがはやいか桃の実は空中にうかびあがり、部屋のなかを自由じざいに飛びまわっていたかと思うと、窓からとびだし、庭をひとまわりして、また机の上に着陸しました。翌日、桃太郎が小さなてんくうの島ラピュタに鬼たいじに行って、宝ものをいっぱいもって帰ったことは言うまでもありません。

(おわり)


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わにさんのピアノ ~なかがわりえこ「ごきげんわにさん」にそえて (作:はやみかつとし) ♪希望のポケット童話

 かわのそこからピアノをひきあげてきたわにさんは、それはじょうずにピアノをならしました。
 ピアノで、ほんとうにうたをうたっているみたいでした。

 とおりかかったぼくは、きいてみました。
「たたいてならすだけなのに、どうしてうたってるみたいにきこえるの?」
 わにさんは、はなうたをならしながらピアノをひきつづけ(そういうピアニストって、たくさんいるんです!)、ひきながらこういいました。
「それはね、ほんとうにうたってるきもちでひくからさ。
 けんばんをたたくしゅんかん、うたうように、ゆびにきもちをこめるんだ。
 ゆびだけじゃないよ。
 うたは、くちだけでうたうんじゃないよね? のども、おなかも、せすじも。からだのぜんぶ、じぶんのぜんぶでうたう。
 ピアノもそうだよ。てくび、うで、かた、せなか。そしてじぶんのぜんぶでうたえば、ピアノでうたえるんだ」

 それはすてきだなあ…たくさんれんしゅうしたら、ぼくもわにさんみたいに、ピアノでおもいどおりにうたえるようになるかな。
 でも、ふときになることをおもいだしたので、ぼくはまたわにさんにききました。
「ピアノは…ネコがけんばんのうえをあるいてもおなじことだ、っていってるひとがいたんだって。けっこう、えらいひとだったらしいんだけど…」
 わにさんは、わらいながらピアノをひきつづけ(そんなきようなことができるピアニストも、ときどきいます)、こういいました。
「それはね。
 そのときけんばんのうえをあるいたネコに、うたごころがあるってことを、そいつはしらなかったんだよ。
 まったくねえ…。うたごころはにんげんだけにある、なんて、おもいこみもいいところだよねえ」

 ピアノをひくわにさんをながめながら、それはそうだよなあ、とぼくはおもいました。


(おわり)

著作権は作者にあります。
作者コメント: これは、中川李枝子さんが作詞した「ごきげんわにさん」(小森昭宏作曲)という童謡の後日談として書きました。できれば中川さんの詞もあわせて読んでいただきたいところですが、ウェブ上では公開されていないようでした。もっとも、この作品は単体でも成り立っていますので、お楽しみいただければと思います。

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晴れときどき星日和 (作:JUNC) ♪希望のポケット童話

夜になったらきまって
星が降ってくるよ

雨よりも雪よりもおおきい
ちょうどピンポン玉くらいの
星が降ってくるよ

雨のようにいそがずに
雪よりはおしゃべりに

ポロンパラン、ポランパロン
やさしい音をたてながら
星が降ってくるよ

ポロンパラン、ポランパロン
とびはねてぶつかってまたはねて
たのしそうにおどっているように

いっぱいおどっておどりつかれて
ねむってしまった星たちは
空にはもどらずにしばらくこっそり
地面ですごしていたりするんだ

あそこにもそこにもここにも
・・・ないしょだけどね

とくに春なんか
道ばたのタンポポの数が
急にふえてたら、それだよ

しぃ、耳をすましてみてごらん
ポロンパラン、ポランパロン
かわいい音がきこえてくるから

晴れときどき星日和
ポロンパラン、ポランパロン

君のちかくにも、きっと

(おわり)


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プロフィール

青砥 十

Author:青砥 十
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、奈良県在住。どうぞよろしくお願いします。

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