「プラスティックロマンス」
万緑が生い茂る山間をくぐり抜け、ぼくたちの旅はすいすいと駆けめぐる。少しひなびた車窓から草木をなでた風がさわさわ流れこむ。祖母はひざの上に太陽のかけらみたいに鮮やかなミカンを置いて、ぼくたちにほっこりとした笑顔を向ける。けれど、ぼくたちはミカンに手を伸ばさない。なぜならぼくらはまだ駅を出たばかりだからだ。
峠の茶屋では娘が忙しそうにはたらき、そのふもとの門前町でそば屋が客を呼んでいる。木造の立派な駅舎の前を通り過ぎ、どんちゃん騒ぎの屋形船を谷川の底に見おろして、山肌に異人が建てた白ぬりの教会を見つけ、まだまだ走る。汽車は煙をずっと吐かない。そして、二周目に入る。ぼくたちは脱ぎ散らかした靴もそのままに、車窓にしがみつき、やっぱりミカンに手を伸ばさない。なぜならぼくらは永遠の旅行者だからだ。
(了)
峠の茶屋では娘が忙しそうにはたらき、そのふもとの門前町でそば屋が客を呼んでいる。木造の立派な駅舎の前を通り過ぎ、どんちゃん騒ぎの屋形船を谷川の底に見おろして、山肌に異人が建てた白ぬりの教会を見つけ、まだまだ走る。汽車は煙をずっと吐かない。そして、二周目に入る。ぼくたちは脱ぎ散らかした靴もそのままに、車窓にしがみつき、やっぱりミカンに手を伸ばさない。なぜならぼくらは永遠の旅行者だからだ。
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