太古より、かれらは年に数度ある謝恩祭を何より心待ちにしている。その夜すべての脳はいつもより深い夢に包まれて、神経の網がはずれ、かれらはにぎやかに出かけていく。ジャズピアニストは「夜は千の目をもつ」という歌を世に残したが、それは撹拌された夢のわき道で偶然その一景を嗅ぎとったに違いなかった。
謝恩祭の日、かれらは同胞の過労死裁判を傍聴し、新しいオープンカフェでブルーベリーアイスをつまみ、大学で人種問題の討論会に参加し、エステサロンで乾燥肌をうるおす。人気のジムでは筋力を鍛えたり、プールでたっぷり遊泳したり。バーではビールなどの炭酸類は売れず、客はそろってソムリエの真似ごとをする。やがていつもの相棒と離れ、気の合う恋人を探しふたりきりでグラスをやさしく傾ける。明け方になるとそわそわしはじめ、内側に焼きつけた目醒めの時刻を互いに思い出し、再会の願いを抱き帰途につく。
あのときピアニストは粗悪な粉末のせいで迂闊にも夢のかごから転がり出てしまったのだ。漆黒の眼窩をかばいつつ動物習性のようにピアノに座り、十本の長い指で美しい楽曲を奏でた。いわく口ずさんだ詩は、運命の出逢いは夜の目がみちびく――と。
(了)
謝恩祭の日、かれらは同胞の過労死裁判を傍聴し、新しいオープンカフェでブルーベリーアイスをつまみ、大学で人種問題の討論会に参加し、エステサロンで乾燥肌をうるおす。人気のジムでは筋力を鍛えたり、プールでたっぷり遊泳したり。バーではビールなどの炭酸類は売れず、客はそろってソムリエの真似ごとをする。やがていつもの相棒と離れ、気の合う恋人を探しふたりきりでグラスをやさしく傾ける。明け方になるとそわそわしはじめ、内側に焼きつけた目醒めの時刻を互いに思い出し、再会の願いを抱き帰途につく。
あのときピアニストは粗悪な粉末のせいで迂闊にも夢のかごから転がり出てしまったのだ。漆黒の眼窩をかばいつつ動物習性のようにピアノに座り、十本の長い指で美しい楽曲を奏でた。いわく口ずさんだ詩は、運命の出逢いは夜の目がみちびく――と。
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