
砂ずきんは絶壁をゆっくりと垂直に登っていく。島に続々と舟が着き、いっそう数が増えていく。長い氷河期がもうすぐ歴史から追放される。海岸から舐めあがる吹雪もやわらいできた。
凝固した植物の体は国境兵のように整列し、砂ずきんはそれを造作もなく越えていく。島の頂きをめざすと、うずたかく半月状に盛られた泥のなかに、地盤を揺るがすほどの巨大な蝸牛が眠りについていた。周囲の地面には網目のように静脈が張り巡らされ、海をわたり野を走り、この星のあらゆる叫びを吸い寄せていた。
先陣は歓喜の目でふり返り、後続の輩に空いているバルブの場所を教えた。歓声はやまない。ついに頭数が揃ったのだ。かれらは呼吸を合わせ、すべてのバルブを一斉に回す。やすらかな蝸牛のなかに熱狂が流れこみ、赤々とふくれあがって地鳴りが島を覆いつくした。
やがて用済みの古代史が焼かれ、舞いおこる陽炎をつき抜け烈烈烈烈と噴き出す大地の咆哮がぶあつい雲を撃ち破る。雲はうねり耳たぶとなり、島はそのゆるんだ穴の一点をひたすら撃ち続ける。天の耳が鳴きくずれ臨界を超えた時、一瞬ですべての鼓膜が犠牲になった。そして、地表には新緑のにおいがただ広がっていく。
(了)
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