「バニシングモーテル」

宵闇の二番星に牽かれ、沿道の標識に目もくれず、二人はただカーステレオに身をひたし、長い道のりを駈けていく。今夜のために彼女は新しい夏服をまとい、遥かな淵からやって来た。果てしなく天に横たわる河は、時を得てティアラのように輝いて、照り返す河面の銀が小さな車影を明るく染める。
やがてすべてを置き去ると、河のほとりに黄色いネオンがぽつんと見えた。野暮ったい看板はいつまでも変わらない。車を停め、砂利を踏み、手を取って一室へと迷い込む。彼女のスカートは淡い光の尾を引いて、ぽろぽろとアステロイドの欠片をこぼす。言葉などない。覚悟はもう決まっていた。
後ろ手にドアを閉ざす。
星の子として生まれた二人には、侵してはならない絶対の誓約があった。けれど今、彼らのくちづけは唇から先へと伝い、指先は互いの秘密を赦し合う。これを導き入れたとき、一粒の雫さえも残らないだろう。全部わかっていながら、二人は鼻頭をすりあわせ、ほんの一瞬、あどけない笑みを取り戻す。
周囲の六面はすべて失せ、際限のない紺碧に包まれる。
彼女が二三歩退いて合図する。抱きとめようと手を伸ばせば、終焉の夜風が心地よく胸の奥まで沁みわたった。
(了)
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