「ノイズレス」
ある荒野の、世界にたった一室しかない、神に遭えると言われる便所に、何万人という行列ができていた。なぜそう言われるかは明白だ。この便所には、神との間に妨げとなる天井がない。
先程そこにTシャツ姿の若者が入ったばかり。若者がつける大きなヘッドフォンからは、周囲の顔をしかめさせるほど激しい音漏れがしていた。だが、それでも神は迎え入れてくれる。
人ひとり分の便所から見上げると、胸のすくような美しいスカイブルーが四角く切り取られている。若者は便座に腰かけるなり、よく使いこんだノートを取り出した。足で軽くリズムを刻み、書きかけの楽譜に目を落とす。
ポケットからペンを出し、それをくるくる回したり、指揮棒のように振ってみたり、膝頭を叩いてみたり、便所の壁にへたな落書きをしてみたり。ヘッドフォンからは去年のライブで全身に噴き出した怒涛のインスピレーションが甦り、胸を熱く掻き立てる。
じっとりと顔や背に汗がにじみ、深く、心地よく、邂逅の台座へ登りつめていく。便所のドアをどれだけ怒号が叩こうと、若者はペンをまったく止めず、なめらかに流れるように五線譜を埋めていく。神とひとつになれる瞬間は近い。
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人ひとり分の便所から見上げると、胸のすくような美しいスカイブルーが四角く切り取られている。若者は便座に腰かけるなり、よく使いこんだノートを取り出した。足で軽くリズムを刻み、書きかけの楽譜に目を落とす。
ポケットからペンを出し、それをくるくる回したり、指揮棒のように振ってみたり、膝頭を叩いてみたり、便所の壁にへたな落書きをしてみたり。ヘッドフォンからは去年のライブで全身に噴き出した怒涛のインスピレーションが甦り、胸を熱く掻き立てる。
じっとりと顔や背に汗がにじみ、深く、心地よく、邂逅の台座へ登りつめていく。便所のドアをどれだけ怒号が叩こうと、若者はペンをまったく止めず、なめらかに流れるように五線譜を埋めていく。神とひとつになれる瞬間は近い。
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