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「アメクジラ」

 ガウディは十歳の春にそれを見つけた。
 寒い砂浜にどっかりと横たわり、もっと広い別の海へ引っ越す日を待つアメクジラ。その名はガウディがつけたもの。
 それは水が充満した巨大な透明チューブにヒレがついたような生き物だった。いつ見ても相変わらずよく眠り、ガウディがいくら体を叩こうと気泡がプルプル震えるばかり。

 油断していると、夕暮れをすっ飛ばして、ガウディは冷たい夜にひと飲みされる。
 灯りのない砂浜に単調な波がごうごうと低く鳴っている。青白く濡れたカニたちが海からびっしり押し寄せて、カシャカシャとアメクジラを取り囲み、のんだくれコラ、のんだくれ、と合唱すると、アメクジラの輪郭線は目を凝らしても見えなくなり、気泡は高く立ちのぼり、夜の群雲とつながっていく。
 ガウディは小さな悲鳴を漏らしたが、気泡は静かな海を見下ろしながら、荒く噴きあがるばかり。何か存在の名残を掴もうとするものの、輪郭のなくなった生き物は手で捕えられるほど有限でないことを知る。

 次の日、家族や友人に話すと、誰もが口を揃えてそれは巨人の死だと答えた。春に、海辺で、巨人は死を迎えるのだという。知らないのはガウディだけだった。

(了)


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プロフィール

青砥 十

Author:青砥 十
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、奈良県在住。どうぞよろしくお願いします。

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