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2012年賀小説「後輩巫女とセンパイ会計、旧機の残影に挑む」

 開架中学一年、生徒会所属、有能なる書記のふみちゃんは、時代が違えば卑弥呼にだってなれただろう。いや、卑弥呼にはなれないか。それくらいお正月から紅白の巫女服が似合っていた。中学校は当然バイト禁止だが、家が神社なので、小学生、いや幼稚園の頃から手伝っているらしい。園児のふみちゃんに巫女服とか完全犯罪だ。罪にならない罪だ。
 と、元日からふみちゃんの巫女服をじっくり眺めている一年先輩の生徒会所属、平凡なる会計の僕は、およそ吊り合わないほどの和服音痴で、数学が得意な理屈屋で、新年用に眼鏡を新調したばかりだった。
 しかし、こんなにふみちゃんをじっくり眺めているのは、僕がただ見たい以外の理由がある。参拝客がまったくいないのだ。元日である。神社である。鳥居もある。本殿もある。神主もいる。中一のかわいい巫女手伝いもいる。だが、参拝客がいない。僕を除いて。つまり僕が参拝を終えてしまうと、この神社は下手したら初詣終了である。
「不景気なのかな?」
「数井センパイ、違います。貧乏神が住みついてるんです。探しましょう」
 今年もふみちゃんは唐突にこういうことを言い出す女の子だった。ブレないのがふみちゃんの鉄則であり定石であり美徳だった。
「え? 貧乏神?」
「それを探すのがここの巫女の役目なんです。そうしないと一ヶ月経っても参拝客が来ません」
 一ヶ月後にはどこの神社も参拝客が少なくなっていると思うが、それはそれとして。
「まあ、お客さんが来ないと神社も困るよね」
「数井センパイ、違います。あれが残ると大変なんです」
 ふみちゃんが指差したのは小屋の中にあるソフトクリームの機械だった。お母さんがせっかく作った自家製八丁味噌ソフトが大量に残ると、大変なことになるらしい。何がどう大変になるかは固く口止めされていて、教えてくれなかった。どうやら、“すべてが味噌になる”らしい。
 だが、仮に参拝客が来たとして、ソフトクリームは買わないと思ったが、おみくじを引いた人に無料で配るからいいのだと言う。それがまずいんじゃないかと内心思うが、ふみちゃんも仕込みを手伝ったらしいのでそれは言えなかった。
「で、探すってどこを?」
「いる場所は検討がついてるので大丈夫です」
 そう言って本殿裏の物置に向かい、南京錠を外して戸を開けるふみちゃん。何があるかと思って覗いたら、中はただの物置だった。真ん中にブラウン管のアナログテレビがある。まだ処分してなかったようだ。
「ほら、やっぱりここです。あ、起きたのかな。テレビから頭と両手が出てきてる」
 そんなものはまったく出ていない。ただの黒い箱型機械だ。厚いコートを着ているのに、余裕で背筋が寒くなる。今年は展開が早いな。もう僕の出番なんだ。文系の女の子に見えて理系の僕に見えない何かがあるのだろうか。あるとすれば探るしかない。
「何が……どこから……出てきたの?」
「貧乏神です。あのテレビから」
 年代物のテレビだ。当然、電気など通っていない。ほこりっぽくてひんやりと暗い物置の中に、巫女服のふみちゃんと二人だけ。
「そのまま……そいつは外へ出て行ってくれそうなの?」
「数井センパイ、違います。彼女は胸がつかえて出られないみたいです」
 そこから溢れ出す状況説明は雑だった。今年の貧乏神は高校生くらいの女の子で、傷んだ長い髪だが、それは安いブリーチで傷んだから後悔して黒髪に戻しただけで、寝起きのはだけた白い着物の胸元に龍の刺青があるような不良だけど、いまだに携帯も持ってないアナログ派であるらしい。
「刺青は年末にリア友の弁天様に誘われて一緒に入れたみたいです。ほら、弁天様は水の神、龍神だから」
 僕は迷うことなく錯乱していた。今年の貧乏神。女子高校生。アナログ派。不良。大きな胸がつかえて。寝起き。はだけた胸元。龍の刺青。リア友の弁天様。龍の神。あれ、弁天様はお金の神様でもなかったか? 貧乏神とリア友なの? 相殺されないの?
 で。
「要は……出れないんだね?」
 つまりこれだと参拝客は来ない。ふみちゃんは肩を落として頷いた。貧乏神は痩せているイメージが勝手にあるが、いやあくまで世間的なイメージだが、スレンダーで胸が大きい女子高校生なんて少し裏切られた気分だった。なんだよ、恵まれてるじゃないか。それはともかく。
「ふみちゃん、なら、簡単だ。すぐお客さんは来るよ」
「えっ? ほんとに? あんなお化けみたいなおっぱい、かなり頑固そうだよ?」
 新年早々、ふみちゃんの口から“お化けみたいなおっぱい”というフレーズが飛び出すとは悪い初夢のようだが、僕は状況の最適な解決を優先した。
「テレビを運び出そう」
「えっ、体が出たまま?」
「いやーー」
 想像すると気持ち悪いし、なぜか照れもあった。あらためて断言するが、理系の僕にはテレビから出ようとしているらしい貞子さん系の彼女の姿は見えない。
「ふみちゃん、違います。一旦、中に戻ってもらおう」
 ふみちゃんは合点がいったという表情で目を輝かせた。僕は言ってから困ったのだが、貧乏神とは言え神様だ。子供がお願いしても素直に戻ってもらえるのだろうか。
「数井センパイ、つまりこうですね?」
 ふみちゃんはいきなりテレビを後ろに倒して画面を上にした。ゴロンと大きな音が鳴る。仰向けの箱型テレビ。そして僕に笑顔いっぱいに報告する。
「引っ込みました」
「あ、ああ……」
 一応神様だと思うが大丈夫だろうか。まあ、これでふみちゃんが貧乏になるようなら、僕が将来安定した職に就けばいい。とかちょっと思ってしまった。

 僕たちは、様子を見に来た神主のお父さんに頼んで、元日からやっている粗大ごみ回収車を呼んで、早速テレビを引き取ってもらった。あれに貧乏神がいるのかいないのかは別として、軽トラの荷台に載せられて行くのを見て、頭の中にドナドナが流れた。
 横でふみちゃんは目をつぶり、しっかり拝んでいた。僕も、少し違うだろうけれど、使い古した年代物には神様や霊が宿るという話を思い出して、同じように拝んだ。
 手伝ってくれた御礼に、と神主のお父さんからおみくじを一回タダで引かせてもらった。ドキドキしながら棒を引き、ふみちゃんにおみくじを渡してもらった。
 なんと大吉である。正月から貧乏神を送り出したせいか金運は最高で、大きな成功のチャンスを掴む、とあった。勉学運はまあまあ良くて、恋愛運は辛抱すれば必ず結ばれる、とあった。ふみちゃんに見せてみる。
「恋愛運のこれってさ、いいの?」
 ふみちゃんはおみくじを読んだ後、僕の顔をじっと数秒見つめてきた。嬉しかったけど気恥ずかしくて、早く何か言って欲しかった。
「数井センパイ、ごめんなさい」
 ふみちゃんは本当に申し訳なさそうな顔をする。
 僕の2012年は終わった。
 と本気で思った。
「おみくじの番号が違いました。取り替えます」
 僕の2012年は救われた。ーーのか?
 ふみちゃんが別のおみくじを持ってきた。今度は末吉、恋愛運は“試練を受け入れよ、さすれば龍の助けあり”とあった。辛抱とか試練とかがあるのは確定のようだ。
「ブルース・リーのファンなら垂涎物の言葉だね。はい、これ食べてってな」
 ふみちゃんのお父さんが特大の八丁味噌ソフトを渡してくれた。小屋の中の椅子に座り、巫女服のふみちゃんと並んで食べる。小さい口で美味しそうになめる。
「数井センパイ、ありがとうございます」
「いや、僕はたぶん何もしてないよ」
 今日何かがあったとすれば、年を越した古いテレビを処分したくらいだ。
「数井センパイ、違います。貧乏神がいるから誰も来ないはずなのに、センパイは来てくれたから嬉しいんです」
 冷えた小屋の中で、にこにこと笑顔を傾ける。まさか巫女服のふみちゃんに会いたいからとは言えなかった。
「僕はお客さんじゃないからね」
「ほえ? じゃあ、何ですか?」
 その質問にドキリとする。学校の先輩? 友達? それとも。僕は一人勝手に照れ臭くなって、ごまかそうと今朝のテレビニュースをひとつ思い出した。
「あはは、何だろう、福男かな」
「センパイ、違います。それは年男です」
 ふみちゃんはピシャリと言い切り、ペロリと八丁味噌ソフトを平らげてしまった。
 三学期が始まるまであと一週間くらいだが、ふみちゃんと別に進展はない。おみくじを枝に結んだ後、ちっちゃな手を振る一年後輩のかわいい巫女……じゃなかった書記に見送られて家に帰るだけだ。

(おわり)


今年のお題はこちらの四つです。
・龍の刺青(茶林さん)
・元旦なのに一人も参拝客の来ない神社の巫女が「きっと貧乏神がいるに違いない」と目を光らせ境内中を探索して回る(いさやん)
・テレビから出るに出れない貞子さん系女子(渋江さん)
・八丁味噌ソフト(楠沢さん)

今年もよろしくお願いします。去年に続いて今年も巫女ネタかよ!という読者の皆さん、お題に巫女が入ってるんです!だから私は悪くない。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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