2012GW小説「後輩書記とセンパイ会計、男色の狩人に挑む」
開架中学一年、生徒会所属、有能なる書記のふみちゃんは、時代が違えば、「東海道中膝栗毛」の講談師にだってなれただろう。弥次さん喜多さんは江戸から大変仲良く二人旅をはじめ、箱根の峠に差し掛かったあたりで、全裸で四つ足の歩く肉人と言うべきものに行き遭った。それは顔に薄ら笑いを浮かべ、涎を垂らしている。「┌(┌ ^o^)┐ ほもぉ……」と鳴いた声は女人のようであった。と、生徒会室でふみちゃんは前置きもなしに訥々と語り出す。
何か邪気あるものに取り憑かれてしまったのか。僕は一呼吸置いて眼鏡を直し、ふみちゃんのかばんから花柄のしおりがくねくね踊り出すのを見た。文系の女の子に見えて理系の僕に見えない何かがあるのか。あるとすれば探るしかない。
「……それは、危険なのか?」
「数井センパイ、違います。危害はありません。ただ、いつもニヤニヤあなたの隣に、名状しがたい混沌、這いよるホモォです!」
すでに溢れ出していた状況説明は雑だった。いや、状況説明ですらなかった。この時代の男色家には膝に栗毛があり、四つ足の女人はそれを集めていたらしい。集めた毛で筆を作り、黄表紙でも青表紙でもない、腐表紙という書物を出して盆や暮れに売るのだと言う。
これは止める必要があるだろう。腐表紙に彩られたふみちゃんは困る。僕の出番だ。
「ふみちゃん、いくら本好きでも、キャラが崩れるからそっちに踏み込んじゃいけない!」
「でも、センパイ、腐っても鯛、いや腐って鯛、むしろ腐ってたい☆ですよ」
突然すぎるのもそうだけど、何でこんなに熱いんだ……!
「ふみちゃん、そっちはまずい。ハンターが狙ってるから!」
「センパイ、違います。捨てるカプあれば拾うカプあり、二次から出た真、表紙は寝て待て、後悔入稿前に立たず、ですよ」
ダメだ、何とかしないと……。
「――腐表紙作りの格言はわからないけど、『腐る』という字は家の中で肉が付く、って偉い人が言ってたよ」
すると、この一言で、ふみちゃんに取り憑いたものは掻き消えた。冷水を浴びたように呆気ない幕切れだった。ふみちゃんは脱力してクタッとなり、僕は慌てて支えた。
「――ん、ふみすけ、どうした? 金欠か? 酸欠か? ドンケツか?」
ちょうど生徒会室に入ってきた会長の屋城世界さんに心配される。絶対にそんな理由で倒れた状況に見えないはずだが、微妙に間違ってない気がするのはなぜだ。
ちなみに世界さんはすごい名前だが、性別は男だ。
「┌(┌ ^o^)┐ ほもぉ……」
ふみちゃんは目を閉じたまま、うなされるようにつぶやく。まだいたのか。陸上部で鍛えられた体を持つ世界さんの登場に反応するな。
その後、目を醒ましたふみちゃんは普通の感覚に戻り、いつも通り古典文学を原書コピーで読んでいる。字がくねくねしていて僕にはわからないが、コピー本のあり方は古代から大差ないそうだ。
ふみちゃんが筆箱から毛筆の筆を取り出したので、一瞬焦ったが、写本を始めただけだったので安堵した。いつも通り特に進展も新刊も震撼もないが、写本を終えたふみちゃんと一緒に帰るだけだ。
(了)
先日、ツイッターを席巻したネタでひとつ書いてみました。
2012/5/6(日)の文学フリマで、単行本新刊「後輩書記とセンパイ会計、不浄の美脚に挑む」を発売します!
こんな内容じゃないから安心してね! よろしくお願いします。
何か邪気あるものに取り憑かれてしまったのか。僕は一呼吸置いて眼鏡を直し、ふみちゃんのかばんから花柄のしおりがくねくね踊り出すのを見た。文系の女の子に見えて理系の僕に見えない何かがあるのか。あるとすれば探るしかない。
「……それは、危険なのか?」
「数井センパイ、違います。危害はありません。ただ、いつもニヤニヤあなたの隣に、名状しがたい混沌、這いよるホモォです!」
すでに溢れ出していた状況説明は雑だった。いや、状況説明ですらなかった。この時代の男色家には膝に栗毛があり、四つ足の女人はそれを集めていたらしい。集めた毛で筆を作り、黄表紙でも青表紙でもない、腐表紙という書物を出して盆や暮れに売るのだと言う。
これは止める必要があるだろう。腐表紙に彩られたふみちゃんは困る。僕の出番だ。
「ふみちゃん、いくら本好きでも、キャラが崩れるからそっちに踏み込んじゃいけない!」
「でも、センパイ、腐っても鯛、いや腐って鯛、むしろ腐ってたい☆ですよ」
突然すぎるのもそうだけど、何でこんなに熱いんだ……!
「ふみちゃん、そっちはまずい。ハンターが狙ってるから!」
「センパイ、違います。捨てるカプあれば拾うカプあり、二次から出た真、表紙は寝て待て、後悔入稿前に立たず、ですよ」
ダメだ、何とかしないと……。
「――腐表紙作りの格言はわからないけど、『腐る』という字は家の中で肉が付く、って偉い人が言ってたよ」
すると、この一言で、ふみちゃんに取り憑いたものは掻き消えた。冷水を浴びたように呆気ない幕切れだった。ふみちゃんは脱力してクタッとなり、僕は慌てて支えた。
「――ん、ふみすけ、どうした? 金欠か? 酸欠か? ドンケツか?」
ちょうど生徒会室に入ってきた会長の屋城世界さんに心配される。絶対にそんな理由で倒れた状況に見えないはずだが、微妙に間違ってない気がするのはなぜだ。
ちなみに世界さんはすごい名前だが、性別は男だ。
「┌(┌ ^o^)┐ ほもぉ……」
ふみちゃんは目を閉じたまま、うなされるようにつぶやく。まだいたのか。陸上部で鍛えられた体を持つ世界さんの登場に反応するな。
その後、目を醒ましたふみちゃんは普通の感覚に戻り、いつも通り古典文学を原書コピーで読んでいる。字がくねくねしていて僕にはわからないが、コピー本のあり方は古代から大差ないそうだ。
ふみちゃんが筆箱から毛筆の筆を取り出したので、一瞬焦ったが、写本を始めただけだったので安堵した。いつも通り特に進展も新刊も震撼もないが、写本を終えたふみちゃんと一緒に帰るだけだ。
(了)
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