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転身  (作:青砥 十)

前置き。
これは「超短編マッチ箱SFファン交流会出張編」に青砥十名義で投稿した作品です。(※募集は終了しています)山下昇平さんのオブジェをお題に500文字以内で(広義の)SFを書くという企画でした。お題のオブジェはこちら

まずはオブジェをご覧いただき、それでは、私の作品をどうぞ。



転身


 私は男を諦めるために蛇を飲んだ。毒を持たない生きた蛇。その蛇はなぜ自分が私に飲まれるか知らないだろう。しかし、せめてもの抵抗で私のおぞましい胃液に消化されまいと、鱗を頑丈な鋼に変えて飲まれていった。蛇の鱗は唇を擦り、咽喉、食道から胃袋へ落ち、その先は私にもわからない。
 男は私を諦めるために鉈を持った。持ち主のない錆びた鉈。その鉈はなぜ自分が私を割くか知っているだろう。だから、あさはかな顛末で私のおぞましい濁血に腐蝕されまいと、刃を鈍らな身に変えて割いていった。鉈の刃は唇を開き、恥丘、臍下から鳩尾へ昇り、その先は私にもわからない。
 男が去った後、蛇と鉈は出逢った。蛇は私の体内で願望を吸って巨大になっていた。鉈に割かれずとも自力で私から出られるほどに成長していたのだ。それでも蛇は鉈に義を感じ湧き出す新しい力で抱擁した。鉈は私のおびただしい血に濡れた蛇を忌み、鱗を斬りつける。けれども鋼の鱗は硬く、鉈はあえなく鉄塊と化した。私は棒同然の鉈を拾い、我が子のように抱き締める。
 われの抜けた腹を埋めなさいと告げる蛇に従い、私は私を諦めるために鉈だったものを飲んだ。やがて私は男の要らない機械になる。

(了)

 

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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

青砥 十

Author:青砥 十
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、奈良県在住。どうぞよろしくお願いします。

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