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水色のランドセル (作:染井六郎) <希望の超短編>

 今年小学生になる姪が、ランドセルの色を聞かれて笑顔で指差した。

 微妙な顔の姉と義兄。
「それはなぁ・・・・・・。」
「他の子はきっと、赤やピンクばっかりだよ?」
 両親の言葉を聞き、姪は僕を見上げた。

*****************

 僕が大学三年の時に、姉が姪を産んだ。
 姉は産後調子を崩して、義兄は単身赴任で他県にいたので、仕事がある母の代わりに、僕は、小さな生まれたばかりの姪の面倒をみた。
 その後、一年間、義兄の単身赴任が終わるまで姉は実家で過ごした。
 小さな姪は、はいはいをし、歩いて、指差し、僕に笑いかけるようになっていた。


 大学を卒業して、僕は就職した。普通の小さな企業で、僕は毎日朝早くから夜遅くまで、時には日付が替わるまで働いた。
 そして、一年四ヶ月後、僕はうつ病になった。
 いつ電車に飛び込もうかと考え、どこから飛び降りようかと考え、それだけで頭がいっぱいになっていた頃。
 僕は会社を辞めた。
 そして、実家に引きこもった。

 暑い夏だった。
 蝉の声が窓の外から聞こえる。それから逃れるように、僕は冷房できんきんに冷えた部屋で布団にくるまって、ただただ眠った。

 なにも聞きたくない。
 なにも喋りたくない。
 なにも食べたくない。

 僕は、僕を消してしまいたかった。

 そんな時だった。
 とんとんと、小さな足音が階段を上がって、二階の奥にある僕の部屋に近づいてくる。
 ドアノブが不器用に回されて、ドアが開いた。
「チロちゃん、おひるごはんだよ?」
 ひょいと覗いたのは三歳になった姪。丸い黒目がちの目が、不思議そうに僕をのぞき込んでいる。
 喋ることもできない無気力な僕の手を握り、三歳になった姪は階段を下りていく。
 かつて、歩き始めた頃に僕が握って歩いた手。その手はまだ小さかったが、あの頃よりは確実に大きくなっている。

 お盆で姉とともに遊びに来ていた姪は、毎日毎日、食事ごとに僕を起こしに来てくれた。

*****************

「買って上げるよ。」
 急に口を挟んだ僕に、姉と義兄の視線が集まる。
「でも、千尋君・・・・・・。」
「それはちょっと・・・・・・。」
 困惑顔の姉と義兄に構わず、僕はランドセルのカタログを広げる姪に問いかけた。
「どれがいいの?」
「これ。これがいいの、チロちゃん。」
 きれいな澄み切った水色のランドセル。

 君が僕を助けてくれた。
 君が僕の手をひいてくれた。
 君がいたから、僕は僕を消さずにいられた。

「分かった。チロちゃんは、ユンちゃんの味方だよ。」

 ずっと、一生、僕は、君の味方だよ。

 君は僕のかけがえのない宝物です。

(おわり)


著作権は作者にあります。
作者コメント:今回の地震で親戚が被災し、今も被災地から出られない状況で、何かできればという思いで書きました。この企画を応援しています。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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