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どんなひ (作:和泉あかね) <希望の超短編>

転寝をしている。いつもの縁側で。小さなピンク色の鼻をひくつかせながら。その鼻にそっと、ふれる。ひんやりと湿っぽい。「鼻水みたいだ」と笑うと彼女は
「あのね? その言い草って、レディーに向かって失礼だわ!」と文句を言いながらゆっくりと金色の瞳をあけた。
僕は、小さく「ごめん」と謝る。
そして、いい天気だね。と呟くと、そうね、いい天気。私にとって、特にいい天気だわ。と甲高い声を出した。機嫌が悪そうだ。そっと背中を撫でてやる。
「知ってる? どんな日でも、あなたの姿を見ているの。でもね、そんな『どんな日』が来なくなる日がくることを、私は知っているのよ」
彼女はいつも、疑問符付きで話しだす。「でもね?」とか「どうして?」とか。
「どんな日が来なくなる日って?」僕は金色の瞳を見つめたまま尋ねる。
「そうね? それは、きっとあなたが気づかないうちに、あなたにとって私が必要じゃなくなる日ってこと」
「意味が分からないよ」
ただ、うんと悲しい事を言っているのは分かった。
鼻先を人差し指で軽く弾くと「痛いじゃない?」としっぽで僕の頬を叩き返した。僕が淋しい時には、必ず彼女はこの縁側で僕を待ってくれている。
僕は、黙って彼女の背中を撫で続ける。
「分かってるでしょ? その日は、もう、すぐそこまで来ているの。少し淋しいけれど、それって素敵なことなのよ」
僕は、黙った。だって、本当は、少しだけ心当たりがある。最近彼女と縁側で会う頻度が減ってきている。その代わりにあの子の事を考える時間が長くなってきた。
あの子のことを想うと、どうしたらいいのか分からなくて、泣き出しそうになる。それは、おひさまをたっぷり浴びた彼女を撫でているときの感触にも似ている。ただ、優しくなりたいという決心だけが、勇敢に沸き起こり、だけどどうすることもできなくて、ただ俯いてしまう。
だめよ? もっと優しくならなくちゃ。そして、大切な人を見つけることができたら、古い思い出は、ちゃんと想い出の箱に閉じ込めないといけないの。
彼女は金色の瞳を少し滲ませて「また、この縁側で」と言った。僕は「また、ね」と答えた。知っている。または、もうない。彼女の消えた日だまりは、いつもよりも温かくて、大きい。彼女を想いながら、そのくせあの子の事を考える。これが大人になるってことなのかも。そんな子供じみたことを考えながら、彼女の鼻に触れた湿っぽい指先で、あの子の手を握ることを、考えている。

(おわり)


著作権は作者にあります。
作者コメント:もしもこれを読んでだれかが、どこかで、少しでも温かい気持ちになってもらえたら、そんなうれしいことはありません。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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拝読しました

和泉さんの作品拝読しました。彼女はもう存在しないんですね。大事なものを失う痛みを感じ、それでも続く毎日を歩く僕のこれからを思い、感情移入しました。また何か作品が読めるとうれしいです。

ありがとうございました

こんばんは。メッセージをありがとうございました。
そう。彼女はもういない存在のつもりで書いていました。伝わるかどうか不安だったので、とてもうれしいメッセージでした。
結局、心のよりどころにしているものがあっても、成長とともにそれには別れを告げて、新しい一歩を踏み出す時がくるのだという話を書いてみたかったのですが、なかなか難しかったです。
猫背なねこさんが共感してくださったとのことが、とてもわたしにとって励みになりました。
また、いつか、どこかで、どんなひか、作品でお会いできるとうれしいです。
繰り返しになってしまいますが、嬉しかったです。ありがとうございました。
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プロフィール

sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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