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ロクでもない者たちの場合 (作:aika) <希望の超短編>

くそ、俺ばっかり何でこんな目に。

冷たい床の避難所の一角、空腹と喉の乾き、不安と苛立ちばかりが煽られる周りの喧騒。
家とは連絡が付かない。何とか充電した携帯電話は、一度こちらから発信してから後、未だに沈黙している。

「おい、そこの若造」
「あ?」

振り返った先にいたのは見も知らぬじいさんだった。背が低く、痩せている。杖をついてはいたが、何とか立っているという風だった。

「お前、暇なら水をもらってこい」
「は?何で俺が…」
「早く行かんか!」

逆らえば今にも杖でぶん殴られそうな勢いで言われ、俺は逃げるようにして給水所に並ぶ。

(赤の他人の為にどうしてこんなこと、面倒臭い)

そんなことをぼんやり考えていたところへ、前に並ぶ中年女二人のひそひそ声が聞こえてきた。

「ねぇ知ってる?……さんのおじいさん。ほら、隅の方にいる、杖をついてるでしょ」
「あぁ。偏屈で有名だもの」
「まだ家族の誰とも連絡取れないみたい、気の毒にねぇ」
「気ままばっかりしてるからそんな目に遭うのよ。息子さんもお嫁さんも扱いに困ってたみたいだもの…」

話題の「おじいさん」とは、俺に水汲みを命令したじじいに違いない。
それは、俺が近所から言われていた言葉とそっくりだった。ご両親はご立派なのに、息子さんで苦労されて、とか、でも、一人息子さんで甘やかしてるからよ、とか。
二人分の水を受け取りながら、両親はどうしているだろうかと考えながら、元来た道を歩く。

「ほら、持ってきてやったぞ」
「ふん、水汲みにどれだけ時間がかかっとる、使えん奴だ」
「んな事ばっか言ってっから家族が出てこねーんじゃねーの?老人は素直に若者の言う事聞けよ」

礼も言わないじいさんに俺は皮肉を言ったつもりだが、じいさんはせせら笑うだけだった。

「そういうお前は、親に連絡しなくていいのか」
「…いいよ、別に。生きてたって喜びやしねー」

本当に、何故生きているのだろう。ここに辿り着くまでに、理不尽な別れを強いられた人たちを幾人も見た。あの悲しみを、一人分でも代わってやれるなら、その方がよかった。

「…俺じゃなく、アンタの家族がここにいればよかった」

俺は、ここにいたって意味がない。今までだって、メーワクばっかかけて生きてきた。それなのに、生きるのか。生きていたい人がたくさんいなくなった、ここで。

「お前は、ワシの家族だ」
「……は?」
「お前は、水を持ってきてくれた。きれいな飲み水を、列に並んで。それは意味のあることだ」
「だからって…」
「お前がどんなロクでもないドラ息子だろうが、それでも意味はある。生きているだけで、意味がある」

生きているだけで。

バカバカしいと、笑おうとした。あるいは、何も知らないくせにと、憤ってもよかった。
でも、どちらも出来なかった。何かが、胸につっかえて。

『皆さん!急いで移動の準備をしてください!ここも危険だと判断されました、今すぐに避難の準備をしてください!』

避難所に放送がかかり、辺りは騒然となる。悲鳴のような声が響く中、一瞬迷い、けれど決めた。
俺は、じいさんの前に背を向けてしゃがみこむ。

「…何だ?」
「逃げんだよ。そんな杖つきながらじゃ逃げ遅れるだろ」
「お前の足が遅くなるぞ」
「アンタは家族だろ」

単純だと笑われるかもしれない。

「ロクでもないくそじじぃでも、生きてる意味があるんだろ?」

背におぶさった体は、想像以上に軽かった。
絶対逃げのびてやる。そうして、今度こそ俺の『家族』に無事を知らせよう。

心に決めて、俺は一歩を踏み出した。

(おわり)


著作権は作者にあります。
管理人コメント:少し字数オーバーしていますが、貴重な作品なので、掲載させていただきます。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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