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小さなツワモノ (作:梅(b^▽^)b ) <希望の超短編>

 地震で帰宅難民と化したわたしは、職場から深夜やっとの思いで自宅に着いた。

 ここまで5時間歩いたのに、さらに過酷な現実が迫る。

 エレベーター 点検中

 ウソぉ!

 10階まで、這うようにのぼり、やっと帰宅。

 ああっ、もう。

 こんなことなら普段から、足を鍛えておけばよかった。


 扉を開けた。

 本棚が、背中を見せてうつぶせている。
 ああ、本棚君。 君もお疲れだったのね。

 観葉植物ちゃんが、添い寝している。
 へぇ、知らなかった。 仲いいじゃん。

 キラキラと、部屋中で輝く食器の破片がとってもきれい。

 泣きたい。 いや、もう笑いたい。



 ふと、視線を感じた。

 わたし、1人暮らしなんですが……

 おそるおそる、身体をひねる。

 赤い毛氈(もうせん)敷いたひな壇だった。
 旧暦の桃の節句に向けて、2月からずっと出しっぱなしにしているものだ。

 あー、びっくりした。


 ウチの古いお雛さま。 戦火もくぐったツワモノで

 骨董品の重々しさと埃っぽさに、加えてキリっとキツい眼差し。

 ふっくらカワイイお顔じゃないから、子供の頃は怖かった。

 お雛さまに背を向けて、箒(ほうき)とチリトリを手に、部屋に散らばる落下物の掃除を始めた。

 布団を敷くスペースだけは、作らないと。


 ユサっ。

 いきなり揺れた。

 余震だ。 ……大きいっ!

 疲れ果てた身体が強張り、箒(ほうき)を持った手が震える。

 怖いっ。
 怖い、怖い、怖いっ!
 
 泣き言が、口から漏れた。


――フンっ!


 え?

 今……

 空耳?

 ゆっくりと、首を回す。

 そこにはお雛さまが、変わらず整然と並んでいる。

 ふと見ると、皆さん口元が写楽のような ”へ”の字になってる。

 こんなお顔、してたっけ。

 凝視しているうちに、ああ、こんなお顔だったかもとぼんやり思った。




 翌朝、明るくなった部屋の中、瞠目した。

 布団の周りは落下物で、ゴミの島のようなのに。

 お雛さまだけが、何事もなかったかのように並んでいる。

 昨晩は疲れていたせいか、この不自然さに気づかなかった。

 そう、三人官女の立ち雛さえもが悠然と、立ち続けている。

 口元は、皆一文字。 写楽じゃない。


 見ているうちに、おかしな妄想が湧いてきた。
 妄想だと思う。

 揺れる中、踏ん張っているお雛さま達だ。

 カーテンを開けると、朝日がキラリと差し込んできた。

 うん、大丈夫。


 ひな壇から、小さくフンっと鼻息が聞こえた。

(おわり)


著作権は作者にあります。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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