スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

『春の声 ~つくしとさくら~』 作:koharu <希望の超短編>

 その年の土の味は、いつもと違っていた。
 どこか塩辛くて、おいしくない。
 不機嫌な顔をしかめながら、地面から顔を出すと、驚いたことに世界が一変していた。

「なっ? なにこれ~っ!!」 
 眼下に見える光景に呆然とする。
 答えを求めて振り仰げば、毎年ならば真上に見えるはずの友人は、遙か後方にいた。

「さくら? 何で、そんな遠くにいるの?」
「地面が動いて、海がここまでやってきたんだよ」
 蕾がだいぶほころびかけた友人が、身を震わせながら教えてくれる。 
 けれども、小さなつくしには、桜の言っている意味がわからない。
(地面が動く? 海が来た?)
 首を傾げながら、キラキラした水平線を見やる。
 ありえない。 
 海は、いつだって、ああやって、遠くで光っているものだ。
 だが、桜は、「海は、ここまで来たんだ」と言い張った。
「海は私の下の地面も削っていった。おまえも流されてしまったかと思ったよ」
 桜は、つくしの無事を喜んでくれた。
 つくしが目覚めるまで、ずっと話し相手がいなくて、寂しかったのだそうだ。
「寂しかったって? ひとは?」
「みんな行ってしまったよ」
 桜が海の反対側に目を向ける。
「どこへ?」
「さあ。 でも、もうじきに帰ってくると、今朝、とんびが教えてくれた。お許しが出たんだそうだ」
 桜が本当に嬉しそうに笑うと、枝の先の蕾がひとつふたつと弾けた。
「お許し? 誰の?」
「さあねえ。 とんびはカラスに聞いたって言っていたよ。カラスは、『てれび』とかいう四角いのから聞いたんだそうだ」
 カラスによると、てれびというのは、時にはうるさいが、実に物知りな奴であるそうだ。
「それでな。少し早いけれども、私は咲こうと思うのだ」
 桜が、少し照れくさそうに打ち明けた。
「せっかく帰ってくるんだ。お帰りって言ってやりたいじゃないか」
「いいね」
 つくしも大きくうなずいた。
 
 桜が咲くと人間たちは喜ぶ。
 酒や料理をもって、桜の周りに集まってくる。
 
「僕も兄弟を起こすよ。ひとを迎えるのは、多ければ多いほどいいものね」
 つくしは桜を見上げて笑う。
(待ってるからね)
 この故郷で、花を咲かせて、いっぱいの緑を芽吹かせて……
(みんなで、ここで待っているからね)
(だから、元気で戻ってきてね。 また遊ぼうね)
 山の向こうにいる人間たちに向かって、つくしは心の中で呼びかけた。

                         (おわり)


著作権は作者にあります。
作者コメント:原発の事故が無事に収束しますように、『沈黙の春』なんてことにならないようにとの願いを込めて。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
スポンサーサイト

テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリー
ブログ内検索・作者検索
プロフィール

sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

後輩書記シリーズ公式サイト

ビジター数
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。