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空耳に鐘を聞く (作:立田) <希望の超短編>

 遠く離れた今日、僕は少しの間だけ眼を閉じて君に思いを馳せることにする。
 花束は届きましたか。
 君が一目で気に入ったという旧い教会は、これまでの祈りに燈された蝋燭の煙のせいで、高い天井の隅々が黒ずんでいる。整列した木のベンチは、ステンドグラスから差し込む午後の光を飴色に反射している筈だ。そこを着飾った人達がぎっしりと占領して、そわそわとさざめいているだろう。それは祝福と期待に満ち溢れた、穏やかでいて賑やかな空間だ。
 色とりどりのチューリップは結婚式には似合わないかもしれないけれど。
 君が一番好きな花だと。
 
 君は母親が縫った白いドレスを着て、父親に手をひかれて、ゆっくりと歩いてくることだろう。オルガンは掠れながらも、心の篭もった音を奏でることだろう。君の手は震えているかもしれない。唇は噛み締められているかもしれない。ヴェールの下、眼を伏せて、心臓はうるさいほど高鳴っているのだろう。
 添えたカードの言葉は、昔の人が結婚について語ったものだ。
 知っていましたか、結婚について楽観的な意見というのは割合少ない。
 引用できるものをみつけるまで時間がかかるほどに。 だからというわけではないけれど、誓いの言葉を告げる前に、ほんの少しだけ躊躇ってくれればいいとも思う。僻みからではなく、これから先の君の人生の重さと長さを思いやって、覚悟を決める間だけ息を詰めるように。呼吸の繰り返しは未来に続くだろう。無意識に、けれど、君がこれまで生きてきたよりもずっと長い時へ。他人と人生を分かち合うということは、もう将来が君だけのものではないということだ。余計な重荷を引き受けることもあるだろう。君の分を相手に負わせることもあるだろう。死が二人を分かつまで。少なくとも君の信じる神はそう言っている。君がそれを解っていない筈はないけれど。
 それでも君は凛とした声で心の底から誓うだろう。
 伝説によればチューリップの葉は剣、球根は黄金、そしてつぼみは乙女の純潔を表すとか。注文を取った店員が、訊きもしないのに教えてくれた。お節介なことだ。でも花を贈ること自体がお節介だったかもしれない。けれど色々とこじつけて考えてみる。
 つぼみが今までの君だとしたら、葉はこれからの人生を切りひらいていくために。
 君と君が選んだ人との間に流れる時が黄金よりも輝かしく貴重なものであるように。
 ……どうしようもなく陳腐だけれど、そう願っている。
 君は幸福に笑うことだろう。花のようにわらうだろう。
 蒼穹に眩しいほど白い花びらが舞う。
 おめでとう。幸せに。しあわせに。
 僕は空耳に鐘を聞く。

(おわり)


2011/03/19 作者サイトに掲載。著作権は作者にあります。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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