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太陽の原 (作:鈴子) <希望の超短編>

 ミマカナは、春になったというのに兎一匹捕らえられず焦っていた。その日も大鳥を取り逃がし、家族に合わせる顔がなく、夕暮れの原っぱをうろついている。一匹捕らえれば、皆と共に獣を狩る組へと昇格できるのに、悲願が叶わない。
 ぶらつく彼の目前に見えたのは、草とたわむれる男であった。確か「土がヒヨクだから」と不可解な言い分をしてムラに居ついた者だ。
「何をしておるのだ?」
 ミマカナは己の苛立ちを隠さず、男にぶつけた。狩りにも不参加な余所者が幸せそうな顔をしているので、腹が立ったのだ。ムラの女が男の元へと通っているのも、皆おぼろげに知っている。が、子をなさない以上、咎めるには至らない。ミマカナは悶々としている。
 しかし男は悪びれず、ミマカナに微笑みかける。痩せこけた身体だ。
「原の手入れをしております」
 答えたきり、男は詳細を話さない。「原?」とミマカナが踏み込むと、ずぶりと泥に沈むではないか。
「あ……!」
 男が青くなって慌てるさまを見て溜飲を下ろし、並ぶ草葉を踏みつける。
「おやめ下さい、イナが死んでしまいます」
 初めて聞く名に足を止めれば、男はしまったとばかりに口を押さえている。男は観念したのか、会釈をするように首をうなだれた。
「秋。秋まで内密に願います。今年はムラに行きわたる豊作となりましょう」
 またも不可思議なことを言う。ミマカナは男の所業に興味を持ち、見届けてみようと決めた。よし分かったと応えて家路に着く足取りがなぜか軽かったことには、本人も気づいていなかった。
 翌日にはミマカナは、ようやく狐を捕らえた。男に会って気が紛れたためもあろうと彼は男の原に思いを巡らし、約束を守ったのだった。
 しかし夏の終わりには、日焼けして逞しくなったミマカナは、男の原を忘れていた。獣が取れず苦心する日々が続くまでは。冬が来る。焦りが募る。
「そういえば、あやつ秋までと言うておったな」
 何ができているというのだ、と不機嫌を装う彼を待ち受けていた原の様子に、彼は、息を飲んだものだった。
 一面に光り輝く、太陽が舞い降りたかの原で、男が微笑んでいる。
「ちょうど良かった、ミマカナ氏(うじ)。刈るのを手伝って下さらぬか」
 かる、という言葉に惹かれてか金色の原に惹かれてか、そっと踏み入ると、土はしっかりと固くなっている。ミマカナの顔にも笑みが浮かんだものだった。

 ――後の世に高天原と呼ばれるようになった、とは、文献には書かれていない。

(おわり)


著作権は作者にあります。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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