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最後の巨人 (作:不狼児) <希望の超短編>

 堆く積み上げられた瓦礫の山か鉄屑置き場に見える海辺の崖下、露出した岩肌に凭れて、それはなるほど巨人のようだが、半ば土砂に埋まり、ほとんど瓦礫と化したように動かない。鋼鉄の腕は力なく垂れ、両脚は水に沈んで波に洗われている。外皮に映る空は鉛色で、巨人の傷んだ姿に呼応するかのように、ところどころ錆びて青く、また橙色の裂け目を覗かせていた。
 赤いまなざしが腕の下や腰のあたりに散らばった小さな影たちを追う。内部で機械が微かにうなり、
「おいで、子どもたちよ」
 巨人は優しく声を発した。
「手足の方では冷たかろう。こっちへおいで」
 子どもたちを胸元に呼びよせると、着たきり雀のボロを纏った裸同然の小さな体にわずかに息を吹きかける。
「わたしの原子炉の火はもうすぐ消える。おまえたちを温めてやることも出来なくなる。生活はさらに厳しくなり、寒さはいよいよ耐えがたくなるだろう。だがな、悲観するには及ばぬよ。起こってしまったことは取り返しがつかない。今日生きていられたのなら、明日のことを思いわずらうな。明日死ぬかもしれないってことは、今はまだ確実に生きているのだ」
 子どもたちに巨人の話は理解できなかった。それでも話し続ける。
「明日の朝、紫の太陽が水平線を嵐の色に染めるとしてもその瞬間、目を開いていたものだけが、何が起きたか知ることになる」
「謎々ね」
「謎々しよう」
「ねえ、問題は」
「答えじゃないの?」
「それで?」
 笑おうとして巨人は断続的な擦過音を立てたが、いつしか眼球のない赤い目が光を失うと、機械音は聞こえなくなり、鋼鉄の皮膚からぬくもりが消えた。同時に気温は急速に下がる。
「おじさん黙っちゃったね」
「死んだの?」
「固まったみたい」
「止まった、って言うんだよ」
 子どもたちは口々に言って、動かない唇に触り、冷たい鼻に攀じ登り、鉄屑を骨のように鳴らして空の青と橙の残響で闇を攪拌し、夜どおし騒いだ。
 食料は唯一、夜になると浜に打ち上がる無数の魚の卵のような、半透明で芯のない、微小な球体だったが、そのひとつひとつが地の果てをさまよい、海水に浸されて凝固した亡き人々の魂だと知ったら、かれらは怒るだろうか。

(おわり)


著作権は作者にあります。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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