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幸せになる権利 (作:30-06) <希望の超短編>

「もう、あなたには関係ないでしょ!」
 そう言って先輩は立ち上がり、バッグを引っ掴んで店を出て行った。
 背中で翻る長い髪を、僕はいつまでも見送っていた。
 テーブルに残された僕は一人、小さくため息。
 先輩が手を付けなかった、固く冷えたカルボナーラ。
 せっかく食事に誘った、職場の先輩。
 なんで、あんな話になったんだろう?
「わたし、付き合ってる人がいるの」
 そう言って僕から目を逸らした、先輩の横顔。
 厚く塗ったファンデーションの下から、うっすらと透けている青いアザ。
 それが痛ましくて、深入りしてしまっただけ。
 先輩の彼は、逢うたびに先輩に暴力を振るっていた。
「今は幸せなの」
 殴られても?
「そうよ」
 わからない。僕にはもう、何もかも。
 今日こそは、好きだと云おうと思ったのに。
 
 それからしばらくして、先輩は職場を辞めた。
 そして僕には、彼女が出来た。

「あいつ、死んだんだよ」
 先輩は寂しそうに笑い、ティーカップを指先でちんと弾き、タバコに火を点けた。
 会社帰りにばったり出会った先輩は、長い髪を切っていた。
 そして、少しやつれていた。
「別れ話をした日にね、お風呂でリストカット。バカだね」
 きっと先輩の彼は、先輩なしでは生きていけなかったのかも知れない。
 そうさ、みんなバカだよ。先輩も彼も、僕も。
「今日はありがとう。声かけてくれて。元気でね」
 タバコの火を灰皿で揉み消し立ち上がった先輩は、勘定伝票を摘み上げて一人、喫茶店の入り口レジに向かった。
 先輩の後ろ姿が、前より強く見えた。
 誰にだって、幸せになる権利はある。先輩にも僕にも。
 何が幸せかは、人それぞれだけど。
 一人残された僕は、スーツのポケットに手を突っ込み、小さな包みを握った。
 明日は彼女の誕生日。
 一緒に食事をした後、この指輪を贈るつもりだ。

(おわり)


著作権は作者にあります。
作者コメント:ある意味ハードボイルド?いえ、ハートボイルドと呼んで頂きたい。
管理人コメント:誰がうまいこと言えと。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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