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星空のメッセージ その2 (作:30-06) <希望の超短編>

 私は、宇宙人である。
 私はこの惑星を征服するため一人、遠い星からやって来た。
 今は生計を立てるためのアルバイトで忙しいが、征服計画は着々と進行中である。
 私の住む四畳半のアパートメントは、柱は削られ、ふすまには穴が開き、畳は毛羽立ちと、完全に破壊されている。
 それは現在家族として同居している『エレキング』と私が名付けた、この惑星で“ねこ”と呼ばれる生物の猛威であった。
 この破壊力は賞賛に値するが、いつか大家に責められるだろうと、私は気が気でない。
 しかし和んでいる場合ではない。私も本気だ。
 遂に私は、大量破壊兵器の使用に踏み切る。
 大量破壊兵器の基本はA・B・Cである。
 つまり、Atomic・Biological・Chemical。
 だが私の住む四畳半のアパートメントに、ウラン濃縮のための施設を建設することは困難であるという事情があり、Aはパスする。
 何より核兵器は私自身が反対だ。征服する予定の惑星を傷つけて、一体何になるというのだ。
 従って、Bの生物兵器の開発を遂行する。
 諸君は白癬菌という真菌をご存知だろうか。
 これは皮膚感染によって拡がる恐るべし真核生物であり、しかも速効で決定的な治療法がこの惑星では未だ確立されていない。
 これに着目した私は、この微生物の培養研究を始める。
 培養した大量の菌を大勢の人類が手に触れる公衆のポイント、例えば電車の吊革等に塗り付けるだけで、この兵器は猛威を振るう事だろう。
 しかし、ここで問題が起こった。
 培養実験の過程で、培養容器を乗せた卓袱台の上で『エレキング』が暴走を起こし、後片付けをした私の体に菌が付着し、増殖するという事故が発生したのだ。
 真剣に痒い。この作戦は非人道的であると判断し、中止とする。
 次に私が着目したのは、スギ花粉である。
 Cの化学兵器の開発であった。
 外殻に棘を持つ約30マイクロメートルのこれを複製量産し、人類が密集している場所に散布する事によって、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される事になる。
 私はサンプルの採取に向かった。
 だが先程から、私の呼吸器系が異常を訴えていて、更に目が開けていられない程の痒みを覚える。
 私はこの惑星での長い生活の中で、アレルギーという体質を得てしまったのだ。
 これではサンプルの採取もままならない。
 涙を飲んで断念する。いや、本当に涙が止まらない。
 耳鼻咽喉科と皮膚科に行くが、「宇宙人は当院ではちょっと…」と言って拒否された。
 帰り道、マスクをして歩いていた私の聴覚神経に、子供の泣き声が届いた。
 見れば幼い少女が、空中に舞い上がったヘリウムガスで膨らませたゴム球を指差し泣いている。
 手を離してしまったのか。だが少女にとってそれは、それ程大切なものなのか。
 私は本来の姿に戻ると、巨大化してその宙に登るゴム球に付いた紐を摘み、再び元の大きさと偽装した姿に戻った。
 私が巨大化すれば、M78星雲の宇宙人と対等に戦える能力を有しているのだ。
 見れば周囲の人類が悲鳴を上げて逃げまどい、少女を連れた成人 の女性が少女を抱き腰を抜かしている。
 少女はきょとんとした顔で私を見ていた。
 私はその赤いゴム球を、そっと少女に差し出す。
「ありがとう。宇宙人さん!」
 少女は私ににっこりと微笑んで、ゴム球を受け取った。
 そう。その笑顔が、私に力をくれる。
 その笑顔があるからこそ、私は頑張れる。
 この幼い笑顔を守るため、いつか必ずこの惑星を征服してみせる。
 私は、宇宙人である。

(おわり)


著作権は作者にあります。
作者コメント:私事ですが、僕も花粉症です。この時期はつらい。
管理人コメント:私も、できることなら鼻を外して洗いたい派です。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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