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ぬくもり (作:モギイ) <希望の超短編>

揺れはあまりにも唐突に来た。気付けば暗闇の中で本棚の下敷きになっていた。
「ヒロキ!」
足を襲った激痛に、隣で寝ている夫を呼ぶ。
「大丈夫、落ち着いて」
そうささやくとヒロキは後ろから私の背中をしっかりと抱きしめた。
本棚は私の下半身をがっちりと押さえつけていた。薄い仕切り板がぎりぎりと足に食い込んでくる。彼の方を向きたいのに寝返りがうてない。
「痛い。足が痛いよ」
私は泣いた。
「大丈夫、すぐに助けが来るよ」
ヒロキはいつもの楽観的な口調を崩さない。
偶然にも私達は家具や柱が重なりあってできた小さな空間に閉じ込められているようだった。外では緊急車両のサイレンが響いている。時折地面が激しく揺れ、身体の上に何かの破片がばらばらと降りかかった。
怖い、と声に出すたびにヒロキがささやいた。
「大丈夫。俺がいるだろ?」
彼の身体は温かい。痛みで朦朧としているうちに夜が来たようだ。瓦礫の隙間から冷たい外気が流れ込んでくる。彼の体温がなければ凍えてしまっただろう。
「このまま誰も見つけてくれなかったらどうしよう」
「大丈夫、大丈夫」
そう繰り返す彼のぬくもりを背中に感じながら、私は眠りに落ちた。

私たちが発見されたのは翌日の朝。救助の人達の呼びかけに私は大声で答えた。
「ほら、助けに来てくれた。俺が今までに嘘ついたことあったか?」
ヒロキは勝ち誇ったように笑う。
「何よ、嘘つきのくせに」
私もつい笑い声になった。
頭上の瓦礫が取り除かれ、ヘルメットをかぶった男性が顔を出した。私の上から本棚を注意深く持ち上げ、中の状態を確認する。彼が私を抱き上げようとすると腰に回されたヒロキの腕が私を引きとめた。
「離してよ。こんな時にふざけないで」
「ごめんごめん」
彼はおかしそうに笑う。どんな時にも悪ふざけは忘れない。不謹慎だとは思わないの?
「よく頑張りましたね」
救助隊の人達は私を毛布でくるみ担架に寝かせてくれた。ヒロキを待たずに担架を持ち上げようとする男性に私は慌てて声をかけた。
「私は大丈夫です。主人を待たせてください」
「あなたは病院で治療を受けてください。今はおつらいでしょうがご主人はこちらでお預かりします。後で必ず会えますから」
後ろでは三人の男性が瓦礫の隙間からヒロキを運び出そうとしていた。彼の全身には毛布が巻きつけられ、その隙間から腕が突き出ている。私を抱いていたそのままの形で硬直している青白い腕。

――ねえ、ヒロキ。まだ悪ふざけ、しているの?


駆けつけた母から彼は即死だったと聞かされた。内側に崩れたコンクリートの壁に頭を挟まれていたのだそうだ。苦しむ間もなかったでしょう、そう言って母は目頭を押さえた。
生きてるフリなんてしちゃってさ、やっぱり嘘つきだったじゃないの。それともあなたって抜けてるから、死んだのに気付いてなかったのかな。


今日、私は退院した。母に車椅子を押してもらい、病院の正面玄関から外に出た。リハビリが終われば元通り歩けるようになるそうだ。もうそこまで春が来ているというのに外の風は身を切るように冷たい。でも私は平気だよ。あなたのぬくもりをいつまでも覚えているから。
母の腕に支えられ、泣いていないフリをして、私はタクシーに乗り込んだ。

(おわり)


著作権は作者にあります。
管理人コメント:字数の目安を多少オーバーしていますが、貴重な作品なのでアップいたしました。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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