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脚 (作:渋江照彦) <希望の超短編>

 「僕は、足が動かせないんだ……」
 少年はアタシにそう言うと、淋しそうにフッと笑った。
 夕暮れ時の庭で、車椅子に座ってボンヤリしている彼を見て、普段ならそんな事はしないのに、アタシから声をかけたのだ。
 最初は少し取っ付き難いとも思ったけれど、打ち解けるまでに 、そんなに時間は要らなかった。
 「そうなんだ……」
 アタシは少年の言葉を聞くと、静かに優しく彼の両脚を摩ってあげた。
 拒絶は、されなかった。唯、少年の顔に少しだけ戸惑いの色が浮かんだだけだった。
 「アタシが動かせる様にしてあげる」
 「無理だよ。生れ付きなんだから……」
 「さあ、どうかしら?」
 「どうかしらって……」
 少年は、それ以上は何も言わずに黙り込んでしまった。
 アタシも無言で少年の両脚を摩り続けた。
 そうする内に、段々と辺りが暗くなりだした。
 「もう、時間ね」
 「えっ?」
 アタシの言葉に、少年は驚いた様な顔をした。
 「お別れよ」
 アタシは短くそれだけ言うと、スッと立ち上がって、既に殆ど闇に飲み込まれかけている庭の大きな松の木の方へと歩き始めた。
 大分、疲れてしまった。
 久しぶりに人の形になったのだ。疲れて当然かもしれない。
 「ま、待ってよ、お姉さん!」
 後ろで少年が叫んでいる。
 その声に、後ろ髪を引かれる思いだった。
 多分、少年が生きている間にもう一度会う事も出来まい。
 力を、使い果たしてしまった様だ。
 でも、気に入った人間の為に使った力だ。
 惜しくは、無い。それに、あの少年ならきっとアタシの期待にも答えてくれるだろう。
 そんな希望を持って。
 ホントは未練が残るからダメなのだけど。
 アタシは消える寸前に、フッと後ろを振り返っていた。
 少年は、泣きそうになっていた。
 でも、そうしてアタシを見続けながら、自分の脚でその場にしっかりと立っていた。

(おわり)


著作権は作者にあります。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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