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春のたまご (作:春名トモコ) <希望の超短編>

 破裂音で目が覚めた。
 ホテルのベッドの上で耳を澄ます。また、パンっと音が聞こえた。窓の向こうからだ。ひとつ、ふたつ。そして爆竹のように、あらゆる場所からその音は続いた。
 なにごとかと窓辺まで行く。夜明け前の薄明かりに満ちた町に人影はなかった。ただ、見ている間に風が強くなってきて、朝の空気が黄色くにごっていく。
 不安になってホテルの一階に下りると、食堂にたくさんの人が集まっていた。緊迫した雰囲気かと思ったらむしろ正反対で、外を眺めている人たちの楽しそうな様子に私は困惑する。そばにいた従業員に一体なにが起こっているのか聞いてみた。
「花が咲いているんですよ。外でたまごのようなつぼみを見ませんでしたか?」
 花? 確かに町中の木の枝に、白くて丸いものがたくさんついていたけれど。
「あのつぼみが開くとき、大きな音と一緒に風が生まれるんです。この黄色いのはすべて花粉ですよ。示し合わせたようにいっせいに咲くので、こんな嵐のようになるんです」
 開花したその日から突然日差しが暖かくなるので、「春を生む花」と言われているそうだ。この町の冬は長く厳しい。だから人々は花の嵐を心待ちにしている。
 完全に夜が明ける頃にはすっかり風はおさまった。道路も屋根も花粉が降り積もっていちめん金色に染まっている。大きなマスクで顔の半分を覆った人がほうきを手に次々と現れ、きらめく日差しのなか町中総出の大掃除がはじまった。

 今日から春なのだ。

(おわり)


著作権は作者にあります。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の便り。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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