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忠行覚え語り (作:高柴三聞) <希望の超短編>

 その当時私には、守るべきものも、こだわりもない。だから、これと言った喜びも無い。泣くことも、笑うことも無く時は過ぎていく。虚しさと言うのだろうか、どんよりとした疲労だけが頭のほとんどを占めていた。老いたのだろう。いずれにしても陰陽の道を極めたところで幸せにはなれないのだ。私は市で佇む死者の姿をよく目にする。大抵の場合、彼らの瞳はなく真っ黒で深い穴が開いているだけである。ずっと見つめていると、その穴の中に落ちてしまいそうな気がするのであまり長いこと覗きこまないようにしている。
 牛車に揺られて陰陽寮での務めの帰り、荒れ狂う死者と出くわした。祟っているのである。ちょうど屋敷の方向なので、いささか辟易した。こういう時は遠回りするか、どこかで暇をつぶして行くしかない。牛車を止めて思案していると、袖をつかむ者がいる。見れば、童の様である。どうやら、この子もあれが見えるらしい。見える者は、お互いそれとわかるものである。
「心配ないよ。この道は避けて少し遠回りして帰りな。」
しゃがみ込んで、童に笑顔で語りかけてやった。笑顔になったのは、いつ以来だろう。
 童は、よほど怖かったのか私にしがみついてきた。人に触れることがほとんどない生活をしていたから、私は少し戸惑った。童は、おそらく祟る死者を初めて見たのだろう。
「大丈夫、大丈夫」
なるだけ丁寧に背中を撫でててやった。掌を通して伝わる温かみが、私の中の失われていたものを呼び起こし始めていた。少し涙がにじんでいた。恥ずかしながら今日、小さな友人が出来た。少年は後に私賀茂忠行と息子保憲から陰陽の道を学び成人して安倍 晴明として活躍するのだが、それはまたの話。

(おわり)


著作権は作者にあります。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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