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ゴールドライン (作:影山影司) <希望の超短編>

 蝿が一匹、両手を擦り合わせていた。
 焙煎した珈琲豆のような色をした、向日葵の種子の上で。
 向日葵は強い日差しにすっかりアてられて、カラッカラに干乾びている。長い茎は途中で折れてしまい、傾いた振り子のようにうなだれた。驚いた蝿が慌てて飛び立ち、金色の花弁を撫でて消えた。
 向日葵畑に埋もれた立て看板は、それでようやく読み取れるようになった。
『この先、汚染区域。要汚染洗浄許可証』
 許可証をフロントガラスに貼り付けて、アクセルペダルを踏む。後方で、錆びた門が閉まる音がした。


 向日葵畑の道は、旧首都高やアウトバーンとは違う。手入れを欠いたアスファルトの道路はあちこちがひび割れ、デコボコしている。単調に続く景色の中で、ぼんやりとアクセルを踏み込めばたちまち荷が跳ねて道を踏み外すだろう。呆け過ぎないように、視線を周囲に向ける。景色は周囲一辺、原色だ。青の空、向日葵の黄色。壁のように競っている茎達は緑。キノコのように立ち昇る純白の入道雲が風に流されて蕩けていく。
 黄色が風向きにあわせて一様に波打った。
 その中に、飲み込まれるようにして沈む向日葵がある。あるいは、掻き分けられるようにして離れるものもある。
 きっと根元には何かが居るのだろう。あの一件で、多くの家畜が野生化したと聞く。廃墟をさ迷った彼らはやがてこの地に根付いたのだ。繋がれた小屋で餌を食むだけの日々に比べれば、この黄金色の世界は天国だろう。


 入道雲に支えられ、灰色の石碑が遠くに聳え立っている。
 鉄骨で無理矢理長方形に成型され、その上からコンクリートで幾重にも塗り固められた建造物だ。あの石碑の中には、この世の全てを焼き尽くす炎が詰まっている。
 向日葵畑の一角が大きく揺れる。車のスピードを僅かに上げた。
 多くの人々があの石碑を恐れている。裕福なものは誰もここに近づかない。
 この先、何百年も、ずっとだ。
 まっすぐ続く道を四つのタイヤでなぞるようにして進んでいる。
 だが、時折このハンドルをありったけ回してしまいたい衝動に駆られる。
 この花畑には何も無い。銭も無い。友達も無い。家も無い。今日しなくてはいけないことも、備えなくてはいけないことも。腹が減ったら乾いた種を食い、喉が渇けば水場へ行けばいい。 
 荒れた路面を乗り越えて車が一度大きく揺れた。
 慌ててハンドルを持ち直し、先を見据える。向日葵の水平線はまだずっと先まで続いている。

(おわり)


著作権は作者にあります。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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