スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

目覚まし時計 (作:モギイ) <希望の超短編>

私は世界一の美女。駿馬に跨り草原を駆ける。瞳には星が輝き絹の髪が風になびく。私と並んで走るのは白馬に乗った王子様。

天気がいいから遠乗りに誘ったの。世界一の美女だから男の人だって誘いやすい。

私は王子に声をかけた。

「根岸さん、お話があります。ちょっと休みませんか?」

私たちは川岸で馬を下りた。今日こそ私の気持ちを伝えてみせる。世界一の美女だから告白だって簡単なの。私は彼と向かい合った。

「根岸さん、私、あなたの事が……」

「ギャンギャンギャンギャンギャン!」

目覚まし時計がけたたましい音を立て、私は飛び起きた。

いいところだったのに……。時計を睨みつける。

入社祝いに祖母がくれた超強力目覚まし時計。前に住んでた壁の薄いアパートでは住人から苦情が来たほどだ。お陰で一度も遅刻なし。世界一の美女じゃなくなった私はしっかりと化粧をして家を出た。



会社のエレベーターで根岸さんと乗り合わせた。

「課長、おはようございます。遅刻ぎりぎりですよ」

根岸さんとは軽口を叩き合う仲だ。気さくな彼は誰とでもそういう関係だから喜ぶほどの事でもない。

「昨日借りた本、あんまり面白いんで夜更かししちゃったよ。山本さんこそ寝坊したの?」

「いえ、すごい目覚まし時計があるんで寝坊したことはないんです。今朝は銀行に寄ったんですよ」

ああ、根岸さん、素敵だなあ。目覚まし時計がうらめしい。



極悪竜は私を掴み空へと舞い上がる。世界一の美女と知ってさらいに来たのだ。

「待てえ!」

白馬に跨った根岸さんが後を追う。彼は弓に矢をつがえ竜に狙いを定めた。

「課長! 私に当たります!」

「大丈夫。僕を信じて」

彼の放った矢は竜の心臓を貫いた。

鉤爪がゆるみ私は落下する。根岸さんは両腕を広げ軽々と私を受け止めた。

「山本さん、怪我はない?」

ああ、今度こそ言わなくっちゃ。

「お話があります」

「うん」

「私、前から根岸さんのことが……」

目覚まし時計が鳴った。



帰りのエレベーターで根岸さんと一緒になった。総務の女の子達に囲まれている。金曜恒例の飲み会に行くらしい。

彼は私の耳元でそっとささやいた。

「ねえ、山本さん。あすの朝、予定あるの?」

ドキッとして彼の顔を見上げる。

「ど、どうしてですか?」

「土曜の朝なら寝坊してもいいんだろう?」

「はあ?」

「それなら今夜は目覚まし時計を止めてから寝てくれるかな?」

根岸さんは私にウインクすると、開いたドアから女の子達に流されるように出て行った。


(おわり)


著作権は作者にあります。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
スポンサーサイト

テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

カテゴリー
ブログ内検索・作者検索
プロフィール

sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

後輩書記シリーズ公式サイト

ビジター数
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。