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ある日の蒲松齢 (作:高柴三聞) <希望の超短編>

 中国の科挙制度は、その競争率たるや大変なものであり、多くの人々が翻弄されてきた。
 この男も例外ではない。
 かつて秀才の名声誉れ高き彼も、落ちに落ち続けて、とうとう鬢に白いものが混じるようになってきた。郷里の期待を一身に背負った彼は今や人生鳴かず飛ばず、何だかぱっとしないおじさんになってしまった。
 何だか鬱屈した気持ちを晴らすべく気分転換に外にテーブルを出し、一人お茶を飲みながらパイプの煙を燻らしてぼんやり過ごすこともあった。ちなみに後世の人は、彼が道行く人を呼びとめ面白話を話させて集めていたと言う者があるが、実の所そんな元気は無かったのである。しかし、彼が後世の人々にそう言われる所以になるもう一つの気晴らしと言うかライフワークが彼にはあった。すなわち、怪談を書くことであった。
 彼の書く物語は、狐何かが良く化けて怪を為す話が多かったのだけれど、変化したかったのは、当の書いた本人ではなかったか。
 彼は、勉学を生涯にわたって継続し努力し続けてきたが、科挙はその門をかれに開くことはなかった。彼は生涯、地位、名声、富、権力などとは、とんと縁がなかった。
 しばらく外にいると体が冷えてきた彼は、やれやれとテーブルを離れ、腰をさすりながら書斎に戻っていった。
 書斎でぶつぶつと呟きながら筆で空を描きながら文章を捻りだそうとウンウン唸っていると、傍らにあったかいお茶の注がれた茶碗が目に入った。
 気がつくと彼の古女房が急須をもってほほ笑んでいた。彼は、苦労をかけ続けてきた古女房の苦労に報いる事が出来ないことを密かに気に病んでいた。普段無口な古女房殿はぽそりと彼につぶやいた。
「お話、楽しみにしていますわ。」
 彼の妻は生涯彼、すなわち蒲松齢を静かで優しい笑みをたたえ続けながら彼を見守り続けた。蒲松齢の書いた大量の短編は白話(小説)は「聊斎志異」として纏められ洋の東西を問わず後世まで絶賛されることになった。ちなみに「変身」のカフカなども絶賛したと言う。
 蒲松齢は、相変わらず頭をかきむしりながら愛する古女房の為に話を書こうと懸命になっていた。そして大きなくしゃみを一つした。蒲松齢が、変に陰湿にならず希望を持ち続けたのは、内助の功のおかげなのではないかと思うのちょっと考えすぎだろうか。

(おわり)


著作権は作者にあります。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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