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ロンロンからの手紙 (作:橋本邦一) <希望の超短編>

 ここセントバーナードタウンでは、今日もせっせとクリスマストナカイ達が、12月24日のイブの晩に良い仕事ができるように一生懸命お稽古をしています。クリスマストナカイは、いつも3頭が一緒になってサンタさんやたくさんのプレゼントをのせたソリをひっぱるので、普段から踊りや歌のお稽古をして呼吸をあわせておく事が大切だからです。
 アミーゴ組はそんなクリスマストナカイチームのひとつです。アミーゴ組がお稽古をする場所は、海かもめ達の休憩場所である南のはずれの、海風が気持ちのよい草原にあります。忘れな草が海風でそよそよとゆれる草原で、今日も歌と踊りのお稽古をしています。
「ドロンパ、踊りの切れが悪いよ。ロンロン、最近ボーっとしてるけど、やる気ないならやめちゃいな」
 女ボスのきびしい口調に、ロンロンは顔を真っ赤にして下を向きしっぽをプルプルさせています。
「ロンロン、クリスマストナカイの誓い言ってみな!」
「ひとつ、我々はクリスマストナカイとしての自覚を持ち、日々の健康管理に気をつける事。ひとつ、我々はクリスマストナカイとして命の限り、12月24日の星空をかけめぐる事!」
「次、ドロンパ」
 ロンロンがびくびくしながら誓いをしゃべっている間、足元にさいている忘れな草で花帽子を作っていたドロンパは、いきなり名前を言われてびくっとしましたが、さすがにベテランです、落ち着いた表情でしゃべり始めました。
「クリスマストナカイは選らばれたトナカイ。クリスマストナカイとして与えられた30年間の使命を果たせば、また、人間として生まれ変わる事ができる」
「つまり、あたし達はエリートなんだから、気合入れないと普通のトナカイに格下げするよ。ただのトナカイになってみな、そりゃ惨めなもんやで」
 昔、人間だった頃の癖でつい関西弁がでてしまったアミーゴに、お稽古を見物している普通のトナカイ達から、「惨めな事あらへんで!」、「あらへん!あらへん!」等と関西弁をまねた野次がとびますが、アミーゴは気にしません。
「一度クリスマストナカイなんてごっつうええ身分になったら、あんな生活に戻りたくないやろ。地道にがんばって、トナカイ貯金貯めれば人間に生まれ変る事もできるんやで。ロンロンはあと何年や?」
「6年です」
「ドロンパは?」
「3年」
「あとちょっとで人間になれるのに、今さら普通のトナカイに戻ってどうすんねん!」
 反省した二人の様子に満足したのか、アミーゴの口調はいつのまにか元にもどっています。
「分かればよろしい。じゃ、ちょっと休憩しようか。お日様が西に2時をさしたら始めるから、それまで解散」
 アミーゴの解散の声を聞いて、見物していた普通のトナカイ達の中から、「ドロンパ!」、「アミーゴ!」等と歓声があがります。アミーゴ組のファンクラブのトナカイ達が差し入れを持って呼んでいるのです。ドロンパは一目散に自分のファンの群れに駆けて行きます。多分、彼等の差し入れの中に、大好物の肉じゃがの匂いをかぎつけたのでしょう。アミーゴも自分のファンの群れに行こうとした時、ロンロンが声をかけてきました。
「あの~」
 アミーゴが振り返ります。
「何?」
「僕、トナカイ貯金解約しようかと思うんですけど……」
 トナカイ貯金を解約するという事は、人間になる事をやめるという事ですから、アミーゴはびっくりします。
「何言ってんの?解約してどうするの?」
「あの病気の男の子の為に使ってもらおうと思って……」
「病気の男の子?」
「去年のイブ、最後にプレゼントをくばった家にいた口の聞けない……」
「……ああ、思い出した!舟町3番地の泉さん家の昇一君ね」
 さすがにチームのリーダーです。プレゼントを配った先の住所と名前は、しっかりと記憶しています。
 ロンロンはずっと自分の胸に秘めていた想いをアミーゴに語ります。原因不明の病気で口が聞けなくなってしまった昇一君の事がずっと忘れられなかった事。昇一君の病気を直す為に、一生懸命貯めたトナカイ貯金を解約しようと決心した事。
 ポロポロと涙をこぼしながらしゃべるロンロンの姿に、心を動かされたアミーゴがやさしく尋ねます。
「でもロンロンは、あと6年クリスマストナカイの仕事をすれば人間に戻れるんだよ。もうちょっとなのに……。それに、昇一君の病気を直す為にどれだけのトナカイ貯金が必要か分からないじゃない?」
「足りない分は、普通のトナカイになって返します」
「簡単に言うけど、クリスマストナカイの1年分の貯金は、普通のトナカイの貯金の何年分に相当するか分かってるの?」
「100年」
「何でそこまで……」
「……昔、僕が人間だった時、僕のすぐ近くに昇一君のような男の子がいたような気がするんです。人間だった時の記憶は消去されちゃったから分からないけど、僕のすぐ側に、昇一君みたいな男の子がいて、そして僕は彼に何もしてあげられなかった。そしてその事をずっと後悔して生きてきた。そんな気がするんです……」
「だからって自分の事犠牲にして……」
「いいんです。僕は人間として一回生きたし。それに、またがんばってトナカイ貯金貯めるから。何百年かかっても貯めて、そしてまた人間として生まれかわるから……。12月24日のイブの晩、たくさんの人達の笑顔を見てきて思ったんだ。人間ってやっぱりいいもんだなって……」
 そう言って微笑むロンロンにアミーゴが尋ねます。
「あの人に会えなくてもいいの?人間だった時、ロンロンが好きだった彼女に会う為に、今までがんばって貯金してきたんでしょ?」
 ちょっと考えて、ロンロンが答えます。
「会いたい。すごく会いたい。でも今じゃなくていい。もっともっと苦労して、もっともっといろんな事勉強して、みんなの事を守れる強い男になってから。それからでいい」
 アミーゴはもう何も言えません。ただ呆然とロンロンの決意に満ちた顔を見つめるだけです。
「じゃアミーゴさん、今まで本当にありがとうございました。もっと早く言おうと思ってたんですけど……。ドロンパさんにもよろしく伝えてください」
 立ち去ろうするロンロンの背中にアミーゴが声をかけます。
「待って!」
 アミーゴは、足元にさいている忘れな草を3本つんで、ロンロンに渡します。
「ここで一緒に稽古して汗流した事、いつまでも忘れないでね」
「ありがとう。でも普通のトナカイに格下げされた瞬間、クリスマストナカイの記憶からは僕に関する記憶は削除される規則じゃないですか?だから、あと3日もすればアミーゴさんもドロンパさんも僕の事なんか覚えてないですよ」
「そんな事ない。きっと思いだすよ。記憶が消されても、この忘れな草を見ればきっと思いだすから」
 目に涙を一杯ためてそう言うアミーゴに、ロンロンはにっこりうなづきそっとその場を立ち去るのでした。
 それから1ヶ月後。
 いつもの草原でお稽古をしているアミーゴの所に、郵便トナカイが1通の手紙を運んできてくれました。
 あけてみると短い手紙に添えて1本の忘れな草が入っています。
「お元気ですか?おかげさまで、トナカイ貯金の解約と、長期トナカイローンを組む事で、昇一君の病気を直してもらう事ができました。これから何百年もかけて借金を返さなければいけませんが、一時期はクリスマストナカイだった事を誇りに、地道にがんばります」
 手紙の最後にはロンロンと書かれていますが、アミーゴには心あたりがありません。手紙を読み終え、不思議な気持ちで、封筒に入っていた忘れな草を見つめた時、アミーゴは自分が泣いている事に気がつきました。
「あれ?何で涙が?どうしちゃったんだろう?」
 悲しいような、せつないような、でも暖かいなつかしさで突然胸が一杯になり、涙がとまらなくなったのです。
 ポロポロと泣き続けるアミーゴのほほを海風が柔らかくそよいでいきます。アミーゴの周りの忘れな草も、ゆったりと気持ちよさそうに海風にゆられていました。

(おわり)


著作権は作者にあります。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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