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わにさんのピアノ ~なかがわりえこ「ごきげんわにさん」にそえて (作:はやみかつとし) ♪希望のポケット童話

 かわのそこからピアノをひきあげてきたわにさんは、それはじょうずにピアノをならしました。
 ピアノで、ほんとうにうたをうたっているみたいでした。

 とおりかかったぼくは、きいてみました。
「たたいてならすだけなのに、どうしてうたってるみたいにきこえるの?」
 わにさんは、はなうたをならしながらピアノをひきつづけ(そういうピアニストって、たくさんいるんです!)、ひきながらこういいました。
「それはね、ほんとうにうたってるきもちでひくからさ。
 けんばんをたたくしゅんかん、うたうように、ゆびにきもちをこめるんだ。
 ゆびだけじゃないよ。
 うたは、くちだけでうたうんじゃないよね? のども、おなかも、せすじも。からだのぜんぶ、じぶんのぜんぶでうたう。
 ピアノもそうだよ。てくび、うで、かた、せなか。そしてじぶんのぜんぶでうたえば、ピアノでうたえるんだ」

 それはすてきだなあ…たくさんれんしゅうしたら、ぼくもわにさんみたいに、ピアノでおもいどおりにうたえるようになるかな。
 でも、ふときになることをおもいだしたので、ぼくはまたわにさんにききました。
「ピアノは…ネコがけんばんのうえをあるいてもおなじことだ、っていってるひとがいたんだって。けっこう、えらいひとだったらしいんだけど…」
 わにさんは、わらいながらピアノをひきつづけ(そんなきようなことができるピアニストも、ときどきいます)、こういいました。
「それはね。
 そのときけんばんのうえをあるいたネコに、うたごころがあるってことを、そいつはしらなかったんだよ。
 まったくねえ…。うたごころはにんげんだけにある、なんて、おもいこみもいいところだよねえ」

 ピアノをひくわにさんをながめながら、それはそうだよなあ、とぼくはおもいました。


(おわり)

著作権は作者にあります。
作者コメント: これは、中川李枝子さんが作詞した「ごきげんわにさん」(小森昭宏作曲)という童謡の後日談として書きました。できれば中川さんの詞もあわせて読んでいただきたいところですが、ウェブ上では公開されていないようでした。もっとも、この作品は単体でも成り立っていますので、お楽しみいただければと思います。

未来に夢と希望を、そして灯火を。ポケットの中の童話。
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テーマ : 児童文学・童話・絵本
ジャンル : 小説・文学

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プロフィール

青砥 十

Author:青砥 十
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、奈良県在住。どうぞよろしくお願いします。

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