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海が見える街 (作:高宮鈴子) <希望の超短編>

 列車がトンネルを抜けると水面に反射した光が早起きした瞼に刺さった。
「ねえ!」
 あどけない声に振り向くと小さな女の子が立っていた。
「おねぇさんトウキョウのひと?」首をかしげるとピンクのスカートが揺れた。
普段から小さな子と接する機会がなく、片手で数えられる年齢の子への接し方が皆目分からない。私はまるで砂糖菓子を持つかの様にそっと微笑んだ。
「どうして分かるの?」
「わかるよ!」彼女は断言すると私の前に座った。ママはどこ? と尋ねようとしたが、その前に質問の嵐に会った。
「ひとり? どこにいくの?」そこまで言うと、女の子は大きな目をまっすぐ向けて答えを待った。その真剣な表情に思わずクスリと笑うと、ムッとしたのか頬をふくらませた。
「ごめん。私にもあなたくらいの時があったこと思い出したの」そう言うと、子供の頃の自分を思い浮かべようとしたが何故か上手くいかなかった。
「探し物を見つけに行くの」
 キラキラした海を見つめながら続ける。
「海をさがしに」
「うみ?」
 私は、またなるべく優しく微笑むとうなずいた。
 インタビュアは暫く考えたあとで言った。「うみなら…」ちいさな指は窓の外を指した。
 陽は少し高くなって海は少し表情を変えた。
「あなたお名前は?」
「えみ、笑顔が満ちるって書くの」いつも聞かれるのだろう、ハッキリとした声で答えると、飽きたのか席を降りて「おねぇさんは?」と、おそらく最後の質問をした。
「かすみ。春の澄んだ海って書いて春澄海」
「かすみおねぇちゃん、またね」
 パタパタと足音をさせて小さな風は去っていった。


 私は目をつぶって窓に額をあずけた。
 私の名前は広瀬春澄海と言う。東京の人と答えたが正確には少し違う、都内に勤めてはいるが出身は埼玉だ。
 埼玉県の川越、海のうの字も無い地で私は生まれ育った。それなのに私の名前には海がある。不思議に思ったこ とはあっても両親に何故なのか聞いたことはなかった、そこまで深い疑問でもなかったのだ。
 けれどつい最近、思いがけずヒントがもたらされた。
 掃除をしている時に見つけた古い絵はがき。キラキラした海、父の不器用な字で「いつか君にも見せたい」とあり、私の生まれる二年前の日付が記されていた。
 そこが私の名前の由来の地かどうか定かではない、でも私には分かるのだ、若いふたりがその岸辺に立ったということが。


 私は海を探しに来た。
 古いはがきの中の、今日の様に良く晴れた日の、春の澄んだ海を―。


(おわり)


著作権は作者にあります。
作者コメント:いつか笑える日が来ると信じて…。
子どもたちに海を嫌いにならないで欲しいという願いを込めて…。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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