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継いでゆくもの (作:はやみかつとし) <希望の超短編>

 ”It's cloudbusting, Daddy.” ---Kate Bush


 話を無理やりまとめない。無駄口は叩かない。噂には乗らない。
 尊敬する父によく聞かされた心構えだ。今思えば、父は自らに言い聞かせてもいたのだろう。

 父が突然いなくなったのは、まだ幼い私の婚礼の翌朝だった。
 夜更けまで降り続いた雪に蔽われ、遠近感を失くした風景の中にただ一つ、残されたつややかな濡羽色のマフラーだけが鮮やかに焦点を結んでいた。その色は、婚礼で父が着ていた見事な燕尾服と同じ色だった。
 父は知っていたのだ、彼らがすぐそこまで迫っていたことを。だからこそ、逃げも隠れもせず、堂々と、渾身の祝辞を私に贈ってくれたのだ――この世は理不尽な力に満ちている、しかし決してあきらめてはいけない、どんなに苦しくとも辛くともただ生きよ、そして希望の糸をつなぐのだ、と。

 私は今、そのマフラーを抱き締める。彼らは父のすべてを奪ったつもりだろうが、父の残したもののほんとうの大きさを知ることはないだろう。私たちは、決してあからさまにそれを語らず、しかし確実に受け渡しながら、強く鍛え上げていく。私たちは不屈の意思を形見分けし、受け継ぎ、また形見として残す。そうやって、続いていく。

(おわり)


著作権は作者にあります。
作者コメント:エピグラフが示すように、これはKate Bushの"Cloudbusting"という曲に触発されて書いたものです。それは、圧倒的で抑圧的な権力に抗った父への眼差しの物語であり、このたびの大災害とは一見重ならないかもしれません。しかし、「希望」とは何か、ということにおいて何か通じるものがあるのではと思い、寄稿させていただきました。


疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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