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うすべにの (作:鳥谷灯子) <希望の超短編>

 一通の手紙が届いた。差出人の名前はない。端正な白い封筒、生真面目な字の宛名、小さな鳥の切手に知らない土地の消印。私にこんな手紙を出す人物は心当たりがない。
 机の前に座り、はさみで封を切る。白い便箋には同じ生真面目な字が並んでいた。

 お元気ですか。私は蜜蜂を連れて旅を始めました。行く先々でれんげの花が咲き、美しい季節です。蜜蜂たちも喜んでいるようです。
 もう少ししたらそちらにうかがいます。あなたのお住まいは花畑から遠く、私は蜜蜂の世話があるためお目にかかることはできません。でも同じ春の訪れをともに祝いましょう。

 私は便箋から目を上げて窓の外を見やる。隣家の軒先に桜の花が咲いている。気づくこともないまま満開を過ぎていた。便箋には続きがあった。

 苦戦しながらウェブサイトを立ち上げました。どこよりも早く季節の蜂蜜をお届けできます。URLは次の通りです。
 でも直接お目にかかってお届けしたいというのが偽らざる本心です。花の季節と一緒に今年の旅が終わったら、よりすぐりの蜂蜜を一瓶持ってうかがいます。
 その日を楽しみに私は旅を続けます。あなたも、どうぞお元気で。

 手紙はそこで終わっていた。私は首をかしげる。これは新手のダイレクトメールか、それとも押し売りの予告なのだろうか。
 しかし、そんな強引さは感じられなかった。生真面目に書かれた〈あなた〉という文字の並びにこめられた親しさと距離。私をそう呼ぶ〈私〉を私は知らない。
 でも、いい。巡る季節を待つ楽しみができたというものだ。私は立ち上がり、玄関の掃除を始める。気の早さに一人苦笑する。かすかな風に乗ってはらはらと薄紅の花びらが舞う。

(おわり)


著作権は作者にあります。

疲れた心に安らぎと光明を。みんなに届け、希望の超短編。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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