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ようこそ (作:道三) <希望の超短編>

 どう考えても人間ではないのです――。
 なにがって? わたしの後ろをついてくる子どもが、です。雨は止んだというのに肩に担いだ大き目の傘をくるくる回し、ぴょんぴょん跳ねて水溜りを余さず踏みます。ばしゃばしゃ踏むのです。
 バスを降りた時にはまだ雨降りで、気がついたらバス停にいたのはわたしとその子だけでした。可愛らしいので手を振ると、にっこり笑い返します。そして「じゃあね」とお別れしたのですが、なにやらずっとわたしの後ろをついてくるのです。そして、いまに至ります。
 では、なぜ人間ではないかというと、触れないからです。
 ぴょんぴょん跳ねて水溜りを踏むくせに、
「もっとこっちにおいで。車が来ると危ないよ」
 と肩に手をかけようとすると、そのまますっとすり抜けるのです。わたしはバランスを崩しそうになりながら、
「あら、実体がないんだね」
 と言うと、知らん顔してまたぴょんぴょん、と。
「名前は」
 と訊いてもばしゃばしゃ、と。
 ふむ、そうか。
 わたしはその子の好きなようにさせながら、ゆっくり家路を辿ります。ぴょんぴょん、ばしゃばしゃ。見上げれば雨雲はずいぶんと足早で駆けていったようです。太陽がやんわりとした暖かさを、まきはじめます。
 アパートの近くにくると、いきなり子どもが駆け出しました。傘をちゃんと丸めて手で持ち、あっと言う間にわたしを追い抜いたかと思うと、入り口の前で足を止めました。
 大きく咲きすぎて頭が重くなった向日葵のように、少し小首を傾げてわたしを見ます。ああ、なるほど。「いいか」と訊ねているのだろうと思ったわたしは、ちょっとおどけて、大げさな身振りで、「我が家へようこそ」
 頭を傾げたままにっこり笑い返すと、子どもはすっと消えてしまいました。
 きっと、ドアをすり抜けてわたしの部屋に上がり込んだのです。なにせ、実体がないのですから。
 わたしも傘を振って丸めます。だって雨は止みましたから。

(おわり)


著作権は作者にあります。
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テーマ : 超短編小説
ジャンル : 小説・文学

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sleepdog

Author:sleepdog
幻想、冒険、恋愛、青春などをテーマにした短編小説をいろいろ書いています。子供のころから妖怪が大好きで、最近は結構ゆるふわなものが好みです。 生まれは群馬県前橋市。現在、名古屋市在住。どうぞよろしくお願いします。

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